学部で養った
他者への想像力を生かし
被災地に貢献する

掲載日 2023/02/16
No.213
コミュニティ人間科学部
コミュニティ人間科学科 4年
菅野 睦子
神奈川県立市ケ尾高等学校出身

OVERTURE

高校3年生の時、初めて東日本大震災の被災地を訪れたことを契機に、災害を自分事として捉え、防災における人とのつながりの大切さ、支え合いの基盤となる「まちづくり(地域創生)」を学びたいと考え、コミュニティ人間科学部に入学した菅野さん。学部での学びと、岩手県陸前高田市のNPO法人での継続的な活動を通じた気付きは、現地に立脚した地域創生事業の担い手となるという決断、「在学中からの二拠点生活」でした。

「防災」の観点からまちづくりを志しコミュニティ人間科学部へ

高校3年の夏、卒業後の進路に悩んでいる時に、企業のCSR活動で企画された「高校生向け東北被災地スタディツアー」の募集が目に留まりました。小学校4年生の時に発生した東日本大震災はずっと心の片隅にありましたので、思い切って被災地東北三県(福島・宮城・岩手)を巡るスタディツアーに参加しました。

被災された方々の体験談に耳を傾け、震災遺構の見学を通して、災害の恐ろしさを知るとともに、『「災害」は「他人事」ではなく、誰しもが「自分事」にして考える必要があること。そして、「防災」は「個人単位」で対策できることもあるけれど、人と人とのつながりや支え合いといった「地域単位」で取り組むことが必要なのではないか。』と思いを強くしました。そのような折に、青山学院大学で地域に暮らす人々の行動に焦点を合わせたコミュニティ人間科学部が新設されることを知り、第1期生として入学することを決めました。

高校生の時に参加した東北スタディツアー

座学と地域実習の相互連動で深める学部での学び

学部の学びの特色は、地域と社会を形成する人々に着目して、「子ども・若者」「女性」の活動支援や、コミュニティの「活動支援」「資源継承」「創生計画」にかかわる諸課題の理解を座学で深めたうえで、地域実習によって実践的な対応能力を育成する履修プログラムが設計されている点です。

私は入学当初からの問題意識に沿って、「コミュニティ創生計画プログラム」を選択しました。1~2年次では、行政の計画や制度などを学び、社会問題の背景を知り、「地域を見る目」を養うことができました。3年次に履修する地域実習は、北海道から沖縄まで約30の実習地の中から、震災復興地においてまちづくりを推進する行政や市民団体等多様な主体が持つ視点を知るため、岩手県釜石市を選択し、訪問しました。行政や市民活動に携わる方々からさまざまなお話を伺い、そこで得た気付きは、まちづくりにおける市民参加の必要性です。釜石は、「関係人口」と呼ばれる「観光客以上、移住者未満の関わりを有す人々」を大切にしています。実習中、関係人口をどのような仕組みで増やすのか?を尋ねたところ「制度策定よりも人が魅力だから、まずは足を運んでもらって、釜石のファンになってもらいたい」という答えをいただいたことが、私の諸活動に大きな意味をもたらすことになりました。

コミュニティ創生計画プログラム、釜石市での地域実習

「量的研究」と「質的研究」で地域の実態や課題を実感値として理解

地域の実態や課題を実感値として理解できたのは、学部で幅広い研究手法を身に付けたおかげです。まず、「量的研究」として印象に残っている科目は、「社会調査士」資格取得の一環で履修した「地域社会調査論Ⅳ」です。4年間で履修した授業の中で、特に内容が難しく復習や課題に苦労したのですが、その分、身に付いたことも多く、授業が終わった今でも役立つ教養・知識を得ることができました。社会調査の過程は大変ですが、その結果、社会事象の因果関係が明らかになるところに面白さを感じています。

一方、3年次のゼミナール(ゼミ)選択では、「地域」という大きな視点からだけでなく、そこに暮らす「人」という小さな視点からのまちづくりについても着目したいと考え、「質的研究」によるアプローチ、とりわけ「ライフ・ヒストリーインタビュー」という研究手法に魅力を感じ、大堀研先生のゼミに所属しています。
ライフ・ヒストリーインタビューとは、活動をされている方から、人生について話を伺うことを通じて、その活動や地域、社会に関する検討を行う調査・研究手法です。卒業論文ではこの手法を用いて、「東日本大震災を語り継ぐ非当事者」というタイトルで執筆しています。

私が使用している「非当事者」とは、震災当時は東北にいなかったものの、震災について語り継ぐ活動をする人を指します。歳月の経過とともに災害の「当事者」は減少するので、先人から語り伝えられる教訓を後世に伝え続けるには、非当事者の存在が欠かせません。そのような人々が伝承活動を担おうと思った動機などをライフ・ヒストリーインタビューでリサーチを行い、非当事者による災害伝承の可能性を見出そうとしています。ゼミで「人の話を聞いて分析する」という実践的な学びを重ねた経験は、地域活動において重要な「他者への想像力」を養う上で、大きな糧となりました。

コミュニティ創生に対する問題意識は課外活動にも連なる

学部での学びと並行して、高校時代のスタディツアー参加時に陸前高田でお世話になったNPO法人「SET」(SET)のまちづくり活動に、本学入学直後から参画し、定期的に岩手県へ通いながら、継続的に取り組んでいます。

SETの活動に共感した理由は、人口減少社会に直面した日本において、人口増加を前提に作られた行政・社会システムは本質的な解決策なのだろうか?という問いを出発点に、活動をしているところです。町が直面している人口減少という現状を「人が減るからこそ豊かになる」とポジティブに捉え、「ひとづくり×まちづくり」と掛け算の発想で新しい解を模索する姿に刺激を受けました。時間が許す限り現地に赴き、大学生による町おこしプログラムの企画運営、公民館でのマルシェ活動、民泊事業に携わっています。町民の方と共に「暮らすよう」に過ごす時間が長くなるにつれ、人の温かさ、自然、食、伝統・文化、街並みなど五感で触れる魅力に、東京では感じることがない大きな幸せを感じるようになりました。活動を終え帰京すると逆に郷愁を覚える、そんな不思議な感覚です。陸前高田がふるさと以上の存在になった時、お世話になっている方々が直面する課題解決に「自分事」として取り組むことこそが私の使命と考えるようになりました。4年生の現在は、1ヶ月のうち3週間を陸前高田で過ごし、1週間ほど帰京するという二拠点生活をしています。

また、SETの活動と並行して、高校時代から参画している横浜市のNPO法人「まちと学校のみらい」の活動にも、「大学生サポーター」として継続的に携わっています。子どもの防災意識向上を目的とした地元の中高生で編成される防災チームが、小学生を対象にした防災講演を企画したり、地域に特化した防災ノートを作成したりする取り組みに、一緒に参加しています。学部の授業で、地域の課題解決を考えるグループディスカッションを日常的に行っていた経験が役立っています。立場を変えつつも、一つの課題に対して継続して取り組むことの重要性を実感しています。

震災復興に貢献するため、二拠点生活を経て
卒業後は陸前高田への移住を決意

二拠点生活を送る陸前高田に卒業後は移住し、観光関連の仕事に就く予定です。観光業の裾野の広さ、地域経済への波及効果の高さはもちろんのこと、私はそれ以上に、「観光」が生み出す地域内外の人的交流、地域の活力づくり、まちの持続性に寄与していくことができるという好循環に着目しています。津波により多くの尊い命、歴史や文化の証を失った陸前高田は、「東日本大震災津波伝承館」が開館されたこともあり、被災地へ想いを寄せて訪れる方々に向けて、震災のこと、いのちの大切さを語り継ぐ「伝承活動」に力を注いでいます。

卒業論文のテーマに通じますが、先人から語り伝えられる遺訓・教訓の大切さを、いかに後世に残していくかが課題です。震災の非当事者の私ができる震災復興は、学部での学びで培った他者への想像力を生かし、陸前高田を訪れた人たちに、防災上、災害伝承の重要性を発信することです。まちの方々にとって、陸前高田に外から人が訪れることは、生きる気力をもたらす可能性があること、当たり前の日常とは違う体験をする楽しみにつながっていること、地元の魅力・価値の再発見にもつながっていることを実感してきました。私は、陸前高田を訪れた方々に「また訪れたい、つながっていたい」と思ってもらえる価値の創出・提供に貢献したいです。そして、一瞬一瞬を大切に生き続け、地域の方々のために動いている自分であり続けたいです。

お世話になっている地域の方と。カードには「ちかちゃん、ありがとう」のメッセージ

コミュニティ人間科学部

コミュニティ人間科学部では、日本国内の地域に着目した社会貢献を追究し、地域文化とそこに暮らす人々の理解を深め、より良いコミュニティ創造に寄与する力を培います。幅広い知識の学び、体験し行動するプログラムを通じて、自ら課題を発見・解決し、地域の人々との互助・共助のもとにコミュニティの未来を拓く力を育成します。
日本の地域社会は、高齢化や過疎化などさまざまな課題に直面しています。その解決に力を発揮するには、地域の人々に接し、活動の実際を知り、共感する体験が重要です。コミュニティ人間科学科では、地域の人々や行政についての学びをはじめ、市町村やNPOと連携した体験的実習などを展開します。専門家として、地域社会の構成者として、地域の活性化や持続的な活動支援ができる人材を育てます。

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