青山学院で学び得た、教育のリーダーシップ。子どもと同目線に立ち、未来の担い手を支える

掲載日 2024/5/8
No.299
東京・私立女子聖学院中学校・高等学校 社会科教諭
教育人間科学部 教育学科卒業
小宮 佑介

OVERTURE

子どもたちの好奇心を掻き立てつつも着実に知識を得ることができる授業展開を目指し、教育者として充実した日々を送る小宮さん。知識とリアルな体験を結び付けた指導方法は、将来を担う子どもたちにとって、本当に大切な教育とは何かを自問自答し続ける努力の結果から生み出されたものです。また、さまざまな課題を抱えた教育界を改革するため、教職者を育てる場である大学に、近年はアドバイザーとして赴くこともあります。自身の立場を俯瞰し、自らの行動によって周囲を巻き込むサーバント・リーダー*の精神は、青山学院での10年間で探し求めた理想形です。

*自分の使命を見出して進んで人と社会とに仕え、その生き方を導きとする人。

教室は想像力を刺激し、新たな思考を獲得する場

大学時代は授業の参加には特に積極的で、朝から晩まで大学にいる毎日を過ごしていました。専門分野以外の広い領域を学べる、青学独自の全学共通教育システム「青山スタンダード」科目や経済学部、経営学部など他学部開講の科目履修にも力を入れたのは、当時から社会科教師になることを視野に入れていたためです。確かに教育学を専門とする教員になりたいという前提で教育人間科学部に在籍していましたが、当然のことながら中高の社会科の教員を目指す上で、得意な地理分野以外の歴史、公民分野についても、幅広い知見を身に付けることは必須でした。10年間、青山学院で過ごしてきた中で培われた信仰への想いを、福音と伝道に注ぎたいと考え、キリスト教学校で働くことも意識し、青学が全国の大学で先駆けて展開するソーパー・プログラムも受講しました。このプログラムは、教員免許を取得してキリスト教学校の教員になることを目指す者に、キリスト教とキリスト教学校の理解を深め、使命感をもって学校教育を支えられる力を養成するためのカリキュラムです。特に、聖書に登場する女性たちの言動や視点に着目した内容の授業は、私にとって新鮮に感じられ、後に自分が女子教育の重要性を再認識し、教壇に立とうと思ったきっかけとなっています。興味のある授業を積極的に履修し、卒業要件単位数を大きく上回る単位を取得しましたが、今でもレジュメやメモは手元に残してあるので、どの授業の内容も鮮明に思い出すことができます。出会った同士、恩師、学外での教育実習経験やキャンパスでの礼拝、そのすべてが私のかけがえのない財産です。

当時助教だった佐々木竜太先生との写真です。大学時代は学科の合同研究室によく入り浸っていました。

卒業後は、大学での学びや考え方、特段、卒業研究で執筆した「サーバントリーダーシップ」の論文を評価いただいた女子聖学院中学校・高等学校の社会科教員になりました。ただ、同じ学校で勤務を続ける中で、宗教とは関係のない教育現場での知見も必要であると考え、その後は他校で4年間勤務をしました。後半3年間は中学1年生から3年生までのクラス担任を務めました。教員として手探りの状態から、少しずつ「世の中に貢献するとはどういうことか」を考えられるようになってきたと同時に、「知恵に惑わされず自然状態でいられる子どもが一番偉い」「よく聞きなさい。心をいれかえて幼な子のようにならなければ、天国にはいることはできないであろう。この幼な子のように自分を低くする者が、天国でいちばん偉いのである。」(マタイによる福音書18章3-4節口語訳)という聖句を思い出し、改めてキリスト教の教えの意義を認識し、再び女子聖学院中学校・高等学校へ赴任しました。現在は進路指導と中学地理・歴史の授業を担当しています。

教壇に立ち、生徒の目が輝く瞬間を見ることが、私にとっての心の糧です。特に地理の授業では見る・触る・食べる・感じるといった五感を使う体験から想像力を喚起させ、生徒の興味を引き出すことを意識しています。例えば地理の学習でアフリカの話題が出た際には、子どもたちにガーナから取り寄せた本物のカカオの豆を触れてもらいます。そのうえで生産に関わる物流・人員などのバックグラウンドも交えながら話すことで教科書の内容にリアリティーが生まれ、自分が暮らす世界との関わりにまで想像を巡らせられるのです。こうしたイマジネーションから探求心を促すプロセスは、生徒に社会を好きになってもらいたいというシンプルな想いを実現させるため、授業に取り入れています。

現代社会においてはマルチタスクやコミュニケーション能力がひたすら求められますが、子どもたちにとってのプレッシャーは甚大です。本当に必要なのは、楽しい、やってみたいと感じる分野でチャレンジ精神や可能性を伸ばす意欲ではないでしょうか。私の進路指導でも、生徒自身の将来を共に考え、ある程度のアドバイスは行いますが、明確な道筋は示さず、生徒自身に想像させるよう意識しています。生徒の自主性を一番に考えて創意工夫した教育から教え子たちが何かを感じ取り、独創性を養ってくれたらと願っています。これが「真理の追求」につながると信じています。

オンライン授業の様子

子どもたちが教えてくれた、真のサーバント・リーダー像

最近では授業中に生徒から疑問点や鋭い視点の質問を受けることもあり、「勉強が楽しい」という好意的な声が多数届く、教師冥利に尽きる日々です。ただ、実は4・5年前までは教員という立場での研鑽を気にするあまり、どう立ち回ればよいか戸惑っていました。暗中模索の時代から抜け出せた理由は、自分の意識の変化にあります。ある時体調を崩したのがきっかけで、人知れず弱い立場に置かれた人たちの気持ちに心の底から共感できました。生徒が陥る弱さや悩みに寄り添うためにはどうすればよいかを考えると、不思議と「先生」と「生徒」という立場ではなく、スッと自然に人として同じ目線に立てたような気がします。それによって生徒たちとの信頼性も高まったと実感しています。これは対生徒に限らずそうですが、「人の悩みは我が悩み」と心得ながら、日々の生活を送っています。

生徒とのワンシーン

教員として人に仕えるとはどういうことか、ビジョンに「サーバント・リーダー」を掲げる青山学院で在学中に考え続けてきましたが、そのひとつの答えを目の前の生徒たちが示してくれた思いです。リーダーシップとはメンバーに共感し、行動を共にすることで、全体の意識を高めるボトムアップ型の影響力なのだと思います。単にトップダウン型で指示命令するだけでは意味がなく、生徒との信頼関係が満足度の高い授業を成立させ、結果として教員としてのスキルも生徒の学力も向上するのだと分かりました。教え子たちと共に学び、成長できたことに感謝と喜びを感じています。また、大学時代に卒業研究の中で「サーバントリーダーシップ」について言及できていたことも、教員生活を10年続けてきて、青学の教育人間科学部で学んでよかったと思う、大きな自信につながっています。

聖句の「地の塩・世の光」を胸に、使命を果たす

「地の塩、世の光」という聖書に登場する言葉は、中等部・高等部・大学と10年間にわたって青山学院で過ごした私の心を支える一番の柱です。目立たないかもしれないけれども優れた役割を果たす「塩」と、目立つ存在で人々を照らす「光」の対照的なシンボルが、人間が果たすべき役割を教えてくれます。教育の場では、一歩下がって生徒たちを引き立てる「塩」の職務がほとんどです。しかし、教室での日々は充実しており、「光」に満ちています。生徒たちの心のうちに宿る「光」を、最大限に引き出したいと心から願う毎日です。

今後は、母校の後輩にアドバイスをしたり、自身の教育観や体験談を共有したりしながら、教育現場と大学をつなぐ架け橋になりたいと考えています。大学生には、教育実習の前に実際の授業を見て、ありのままの現場の楽しさ・課題の両方を知ってほしいです。また中等部、高等部の生徒には、大学生と話して刺激を受け、未来の「大学生活」を思い浮かべ心を躍らせてほしい。双方にとって大きなメリットがあると思います。さらに、今後は大学院に進学して教育分野での専門性を深め、非常勤として交流をより促進したい気持ちもあります。いずれにしても、教職の仕事を軸足に置きつつ、既存の枠組みにとらわれずアクションを起こしていきたいです。教育とは学問のみならず、人間性も高めることで成し得る一大事業です。また、百年の計ともいわれるように、すぐに結果が出るものでもありません。だからこそ今日の一歩が明日へつながると信じ、より豊かな教育環境が築けるよう、全力を尽くします。

授業風景

卒業した学部

教育人間科学部 教育学科

青山学院大学の教育人間科学部は、教育学科・心理学科を連携させながら、「人間」をさまざまな角度から学ぶ多彩な講義や、理論を実践する演習や実習を展開しています。理論的かつ実践的なアプローチの反復によって、人間についてより深く追究。現代社会や人間の諸問題を読み解く高度な専門性と、自ら行動するための課題解決能力・自己教育力を育成します。
教育とは、年代や環境を問わず生涯にわたって行われる普遍的なものです。教育学科では、乳幼児期から老年期に至るライフサイクルの中で、人間がどのように発達・学習・社会化・成熟していくのかを学修し、3年次に選択する専門分野の学びを通して、教育の本質と理想の姿、教育の担い手である人間という存在について理解を深めます。幼稚園から高等学校まで幅広い教員免許状の取得が可能です。

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