「なぜ?」と「光」を追いかけて、物理学探究からIT業界という選択

掲載日 2025/10/31
No.370
大学院 理工学研究科 理工学専攻 基礎科学コース 博士前期課程 2年
須藤 洋平

OVERTURE

幼少期から、身の回りで起こるさまざまな現象に強い探究心を抱いてきた須藤洋平さん。大学・大学院では、物理学を用いて壮大な自然現象の仕組みを解き明かす「理論宇宙物理学」の研究に取り組んできました。来春からは、その中で培った物理学の知識を基にIT業界での活躍を目指します。

懐中電灯の光に思いを巡らせ、「なぜ?」に導かれて物理学の世界へ

私は幼少期から身の回りで起こるさまざまな現象について強い興味を抱き、「なぜそのようなことが起こるのか、その原因や理由が知りたい」と、両親や祖父母にたびたび質問していました。しかし、その答えにもまだ納得がいかず、またさらに「なぜ?」と繰り返し質問をするといったことをよく行っていました。

その中でも、特に幼少期の私の興味を引きつけたのは「光」でした。暗い部屋で懐中電灯を照らしながら、「光とは何だろう」「光はどのようにして生まれるのだろう」といった問いに思いを巡らせ、その不思議な存在に引かれていきました。身の回りにあふれる不思議に熱中するあまり、家電を壊してしまうこともありましたが、私の好奇心に両親と祖父母が根気強く応えてくれたこともあり、身の回りの現象を不思議に思う心はそのままの形で育まれました。

こうしたさまざまな身近な現象についてどこまでも知りたいという関心は、やがて私たち、そしてこの広大な宇宙の成り立ちや仕組みにまで思考を広げるきっかけとなりました。物理学は、あらゆる現象の根本を探究し、この世界を理解しようと試みる学問です。高校の授業を通じて、幼少期に私が繰り返し抱いていた「なぜ?」という疑問を問い続けることそのものが物理学であるように感じました。その問いのさらに先を探究したい気持ちに駆られ、大学では物理学を学ぶことを決意しました。

青山学院大学 理工学部 物理・数理学科* 物理科学コースでは、宇宙から生物など多岐にわたる現象を物理学的視点から捉える研究が盛んに行われています。各研究室では未解明の物理現象に挑んでおり、想像以上に多様で奥深い学びを得ることができます。さらに、学部・学科を問わず履修できる「青山スタンダード」という全学共通教育システムも魅力のひとつです。1年次に履修した「自己理解(個別科目)」の授業では、宗教や文化的背景が価値観の形成にどのように影響するのかを学びました。この授業を通じて、自分とは異なる環境で育った人々の価値観や考え方を理解するための視点を得ることができました。こうした教養は日常生活の中で確実に生かされていて、人に対する見方や理解が広がったと実感しています。

*2021年度より、物理・数理学科は「物理科学科」「数理サイエンス学科」に改編

宇宙で最も明るい光「ガンマ線バースト」の謎に迫る

学部時代から現在に至るまで、山崎了先生の「理論宇宙物理学研究室」に所属し、宇宙で起こる高エネルギー天体現象の研究に取り組んでいます。山崎先生の研究室では、ブラックホールや超新星爆発など、宇宙の中でも特にエネルギーの高い現象を研究対象に、さまざまな視点と理論からその物理過程の解明を目指しています。

私の研究テーマは「ガンマ線バースト」です。ガンマ線バーストとは、宇宙のはるかかなたから、突発的にガンマ線が到来する天体現象です。さらにガンマ線の到来後はX線や可視光、電波など幅広い波長で輝く残光と呼ばれる現象も観測されます。ガンマ線バーストのその多くは数十億光年以上も離れた遠方で発生したものが観測されており、宇宙のあらゆる天体現象の中で最も激しく光を放つ天体現象として知られています。しかし、発生したその場所で何が起こっているのか、その描像を直接捉えたことはありません。「明るさがどのように変化していくか」といった観測結果を手掛かりに、その正体を明らかにするべく研究が行われています。現在は、恒星の最期に起こる大爆発や二つの中性子星の合体に関連する、非常にエネルギーの高い天体現象であると考えられています。恒星の最期や中性子星の合体をきっかけとして、光速に近い速さでジェットと呼ばれる物質が噴出され、それに伴い最もエネルギーの高い光であるガンマ線が、まるでビームのごとく放出されると考えられています。ガンマ線バーストが発見されてから50年以上が経ちましたが、上述した描像でも多波長で観測される多様な振る舞いを見せる観測結果を説明できておらず、また光速に近いジェットがどのように生まれているのかなど、多くの謎が残されています。

私は研究室のメンバーとともに観測データと理論予想の比較を通じてガンマ線バーストの発生源で何が起きているのか、その物理過程の解明を目指しています。観測と理論を駆使し、ジェットの構造や発生源周囲の環境を知ることができれば、ガンマ線バーストの起源やジェット形成のメカニズムに迫れるのではないかと考えています。未解明の現象に挑む研究は困難も多いですが、先人の研究者の方々の蓄積された研究成果に支えられつつ、山崎先生や田中周太先生を含め研究室の仲間と議論を重ねながら一歩ずつ前進していければと思っています。

博士前期課程1年次、研究会にて発表する様子

また、研究室では先輩方から「分かりやすく、簡潔に、本質を伝える」ことの大切さも学びました。非専門家にも伝わるように研究内容を説明する表現力を培うことができ、学部4年次には卒業研究発表の内容が評価され、学科の「優秀卒研発表賞」をいただくこともできました。この経験がさらに研究への熱意を加速させてくれたように感じています。

夢中になった二つの世界、物理学と基礎スキー

物理学の最大の魅力は、身の回りで起こる現象や時には日常とはかけ離れたスケールの現象さえも、最も根本的なところまで掘り下げて理解しようとする姿勢にあると感じています。たとえば、「電球はどうして光るの?」という問いに対して、「電気を流すと熱くなって光るから」という答えが返ってきたとします。しかし、物理学はそこで終わらず「なぜ熱くなると光が出るのだろう」「温度に応じてどのような光が出るのか説明したい!」と、さらに深く問い続けます。一つの現象に対して、理論・観測・実験の多角的なアプローチで、その本質を捉えようと試み続けるのです。

時には、根本だと思っていたことのさらに奥にある仕組みや原理にたどり着くこともあります。こうした果てしない物理過程の解明こそが、物理学の面白さだと思っています。また、論理的な思考や数学的な手法を用いて導き出した仮説が、実際の観測によって裏付けられ、正しいと証明されることも、理論研究の面白いところです。限られた情報から、できるだけ少ない前提で、ありとあらゆる現象を理解しようとするその精神に、物理学の尽きることのない魅力を感じています。

また、学部生の頃、研究以外に夢中になったのが、スキーの基本技術を競う採点競技「基礎スキー」です。スキー場で住み込みのアルバイトをしながら練習を重ね、大学生の全国大会にも出場しました。合宿場では、体育大学など普段接する機会の少ない分野の学生たちと共同生活を送ったことで、考え方や価値観の違いに触れることができ、自身の視野が大きく広がったと感じています。

スキー場での一コマ

物理学の知見を社会へ、IT業界に進む

博士前期課程修了後は、博士後期課程への進学と迷いながらも、これまでに幅広く学んできた物理学の知識を活用し、社会に貢献できる仕事に携わりたいと考え、就職の道を選びました。

就職活動の中で、メーカーの製品開発や設計で活用されている、物理現象の解析ソフトウェアを提供する企業、さらにこうしたソフトウェアを提供するだけでなく、難しい物理現象の解析に、サポートやコンサルティングを通して果敢に挑戦している企業が存在することを知りました。私は大学で幅広く学んできた物理学の知識、未知の現象に挑んだ研究の経験を活用し、社会に貢献できる仕事に携わりたいと考え、この分野を目指すことに決めました。

就職活動を始めるにあたっては、進路・就職センターの方々に多くのサポートを頂きました。エントリーシートにおける日本語の適切な表現など、丁寧にアドバイスを頂きました。私は一人暮らしをしていたため、場合によっては起床してから最初の会話が面接である可能性もありました。そこで、面接の日の朝に面談をしていただき、自分の考えの整理や会話のウォーミングアップに付き合っていただいたこともありました。進路・就職センターの方々が親身に支えてくださったことで、自信をもって選考に臨むことができました。

青山学院大学は、学びたいこと、知りたいことを思う存分に探究できる場所です。授業や山崎研究室、研究会や基礎スキーなど、多様な場での交流を通じて、さまざまな立場や価値観を持つ、多くの出会いにも恵まれました。他者の考え方を理解し、良い点を吸収する姿勢を身に付けることができたのは、私にとって大きな財産です。改めて、人と関わることの楽しさを実感しました。社会に出てからも、多様な人々と出会い、互いの価値観を理解し合いながら、自分の世界を広げていきたいと思っています。そして、大好きな物理学の知識を用いて、より良い社会の実現に貢献していきたいと考えています。

須藤さんの就職活動スケジュール

  1. <博士前期課程1年次> 2024年 12月

    会社説明会に参加

  2. <博士前期課程1年次> 2025年 1月

    インターンシップに参加

  3. <博士前期課程1年次> 2025年 2月

    エントリーシートを提出

  4. <博士前期課程1~2年次> 2025年 3~4月

    各社の1次・2次面接試験

  5. <博士前期課程2年次> 2025年 5月

    最終面接~内々定

理工学部 物理科学科

青山学院大学の理工学部は数学、物理、化学といったサイエンスと、テクノロジーの基礎から最先端を学ぶ環境を整備しています。国際レベルの研究に取り組む教員のもと、最新設備を駆使した実験、演習、研究活動の場を提供するとともに、独自の英語教育を全7学科統一で実施。未来志向のカリキュラムにより、一人一人の夢と可能性を大きく広げます。
物理学はシンプルな根源原理を理解することによって、幅広い科学分野に応用できる学問です。物理科学科では、基礎物理学をはじめ、固体、宇宙、生物といった対象が絞られた分野、さらには超伝導、ナノテクノロジーなどの最先端応用分野まで、さまざまな階層・スケールサイズの物理学をカバーします。充実した設備環境での実験・演習形式の授業により、理解を深め実践力を高めます。

VIEW DETAILS

バックナンバー

SEARCH