チェコ留学で、芸術を支える文化土壌を体感し、人と文化をつなぐ力を見つける

掲載日 2026/1/28
No.380
総合文化政策学部
総合文化政策学科 4年
吉鶴 あかり
東京都立白鷗高等学校出身

OVERTURE

アートプロデュースを学びたいと総合文化政策学部に入学した吉鶴あかりさん。授業での学びを契機に、チェコへの交換留学を決意しました。積極的に現地の文化に飛び込み、「中世の宝石箱」と称されるプラハでの発見は、芸術を支える豊かな文化、文化と人を結び付ける力でした。

芸術のプロデュースを学び、学芸員資格取得も目指す

高校時代、コロナ禍の影響で、所属していた演劇部の活動が大きく制限されました。また音楽家である両親は、対面での演奏がままならない異例の事態に直面しました。しかしオーケストラ団員の父は、仲間たちと「遠隔でオーケストラの演奏はできないか」と模索を始めました。普段は楽器に向き合うことに専念していたプロの演奏家たちが、慣れないオンライン環境で動画制作に挑戦しながら、音楽を届けようと奮闘する姿に心を動かされ、「芸術とそれに関わる人たちが、どうすれば社会とつながり続けられるのか?」を考えるようになりました。そして、芸術を社会・産業とつなぐ「プロデューサー」という役割、仕事に強い興味を持つようになりました。

大学では音楽や演劇、美術など、エンターテインメントの持つ魅力を最大限に引き出し、社会を豊かにしていく方法を多角的に学びたかったので、青山学院大学の総合文化政策学部への進学を決めました。

演劇に興味があったことから、2年次からは「タカラヅカ研究」の竹内孝宏先生のセミナール(ゼミ)に所属し、宝塚歌劇を題材に演劇ビジネスについて学んでいます。劇団の歴史や運営方法、ファン文化などを通じて、宝塚歌劇を「文化における表象装置」として多面的に捉える竹内先生のアプローチはとても興味深く、演劇のマネジメントに対する理解を深めることができました。

また、2年次の「ラボ・アトリエ実習(ラボ)」でも竹内先生のラボを選択し、ゼミOGが取締役を務める劇団俳優座の六本木のシアター運営に参加させていただきました。役者の方のインタビューや本番運営のお手伝いなど、実際の現場に触れることで、演劇を“つくる”側の視点や、プロデュースに関する視野も広がったと感じています。

博物館や美術館等の専門職員として働くために必要な「学芸員」資格取得のためのカリキュラムも履修しています。4年次の「ミュージアム実習Ⅱ」では、国立音楽大学楽器学資料館に受入れていただき、「博物館実習」に参加しました。膨大な所蔵楽器の中から、自ら楽器を選び、企画展示を考えるという課題では、楽器を置く向きひとつで、その特徴の伝わり方が大きく変わることを実感し、展示の奥深さを学びました。これまで学んできたプロデュースの視点を生かしながら、来場者にとってわかりやすく、魅力的な展示とは何かを考える貴重な経験となりました。

ヨーロッパの文化政策を学び、チェコへの留学を決意

私は2年次後期から1年間、協定校留学プログラムを利用して、中央ヨーロッパのチェコ共和国にあるニューヨーク大学プラハ校(University of New York in Prague:UNYP)に交換留学をしました。

そのきっかけとなったのは、2年次に履修した「アート・デザイン概論」です。授業の中で、当時ドイツ首相だったメルケル氏が、コロナ禍の演説で、「文化的イベントは私たちの生活にとってこの上なく重要なもの」と語り、実際に文化芸術に対する大規模な支援を行ったという話を知り、深い感銘を受けました。こうした政策がすぐに実行できるのは、芸術や文化が人々の暮らしにしっかり根付いているからこそだと思い、そのような社会のあり方を自分の目で見てみたい、そう強く思ったことが、留学を決意する大きなきっかけとなりました。

最初は、「留学するならドイツ」と考えていましたが、協定校一覧の中に「チェコ」「プラハ」の文字を見つけて、心が大きく動きました。チェコは、世界的に著名なクラシック作曲家を数多く輩出している国であり、70年以上の歴史を持つヨーロッパを代表する国際音楽祭「プラハの春音楽祭」が毎年開催されるなど、音楽が人々の生活に深く根付いています。そんな環境の中で学ぶことができれば、自分が本当に望んでいた芸術と文化に囲まれた留学生活が送れるのではないか、そう思ったからです。

チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の拠点ルドルフィヌムのドヴォルザーク・ホールでのニューイヤーコンサート

さらに、留学先大学で履修する授業の使用言語を英語選択すると、ドイツの大学に留学する場合、英語開講科目のある学部に限られてしまうという制約がありました。一方、UNYPは大学内の公用語が英語です。語学の制限を受けることなく、興味のあるすべての授業を英語で受けることができます。自分が学びたいことを、自由に、深く追求できる環境が整っている。それが、プラハ留学の大きな決め手となりました。

UNYPは、青山学院大学と協定を結んだばかりの新しい協定校で、私は青学からの初めての派遣留学生となりました。そのため、直近5年以内に協定を結んだ新規協定校への留学者を対象とした「青山学院国際交流奨学金」を受給することができました。年額30万円という大きな支援をいただき、金銭面での大きな助けになりました。

それ以上に嬉しかったのは、「先輩方の知見がない海外の大学に、一人で飛び込み、人脈をゼロから築き、生活を整えていく」というパイオニアとしての姿勢を青学が応援してくれたことです。一方、高校時代にアメリカに短期留学した経験から、現地での日本人とのつながりの大切さを痛感していたので、この奨学金は、私にとって「応援」であると同時に、「責任」でもありました。だからこそ、現地での学びや経験を一つひとつ大切に積み重ねていこうという気持ちが、より強くなりました。

UNYPから青学に交換留学が決まっていたアレットさん(左)と、2023年に青学に留学したカテリナさん(中央)とプラハでラーメンを食べた

留学が決まって最初にしたことは、チェコにいる日本人留学生のコミュニティを自分で探し、コンタクトを取ることでした。ビザ取得、チェコの金銭事情、治安、住居探し、携帯キャリア、医療情報など、生活を成り立たせるために必要な情報は、検索してもなかなか納得できる答えが見つかりません。不安に感じることも多かったのですが、現地に住む日本人の方々から直接、お話を聞けたことで、安心できました。ちなみに、留学後、現地で炊飯器を借していただけたことは、海外で健康を維持するうえで大きな支えになりました。

コミュニケーションの力を磨き、芸術を支える土壌を体感

UNYPでは、20人弱の少人数クラスで、先生と近い距離で授業を受けられます。授業に対する理解度だけでなく、自分の視点で調査したり、相手に伝えたりする力が評価されることが多くあり、プレゼンテーションやレポートだけでなく、SNSや写真の活用など様々な課題がありました。どう伝えるかが自由な分、自分なりの工夫が求められるのです。

アメリカの大学でよく行われる「Public Speaking」の授業は、自分の成長を実感できる経験になりました。青学では、ネイティブ・スピーカーの先生が担当する週4回の集中英語授業「イングリッシュ・コミュニケーションⅠ,」で聴く力・話す力を磨き、最上位クラスで成績も良かったので、正直、自信がありました。しかし、UNYPの学生はチェコ人も外国人留学生もレベルが高く、共に授業を受ける中で、世界の壁の高さを痛感しました。最初は苦労もしましたが、青学の授業で培った基礎があったおかげで、ある瞬間から、「どうすれば伝わるのか」が分かるようになりました。そこからは、準備の仕方や、自信を持って話すための工夫、緊張しないメンタルの整え方まで、実践を通じて育むことができました。最終課題の後、先生から「最初の頃と比べて、話し方に個性が出ていて、成長がはっきりわかった」とフィードバックをいただいたときは、本当に嬉しくて、「もっと場数を踏みたい!」と強く思いました。

留学中、特に印象的だったのは、チーム力を評価される機会が多かったことです。国籍も母国語も異なるメンバーと、英語を共通言語にして取り組むチーム課題は、想像以上に多くありました。意見がぶつかることもありましたが、お互いを尊重しながら課題を完成させられたときの達成感は忘れられません。その経験のおかげで、日本での就職試験でのグループワークに臨んだとき、驚くほど落ち着いて対応できる自分に気づきました。「日本語でコミュニケーションできるなら、何も困ることがない」、そう思えるほど、留学で培った経験が自信につながっていました。

プラハ城のスペイン・ホール。政府の公式行事用施設であるため、通常は一般公開されていないが、年に一度の公開日に訪れることができた

プラハは、街全体がまるで美術館のような環境です。そんな場所だからこそ得られた学びがありました。「Art of the Western World」の授業では、教授と一緒にプラハ市街地を歩きながら、それまでに学んだ美術作品を探す機会がありました。普段、歩いている街並みを、美術の観点で見つめ直す体験は、とても新鮮で感激的でした。最終課題では、プラハの教会にあるルーベンスの絵画を実際に見て調べることで、芸術を「体験しながら学ぶ」という醍醐味を実感しました。

UNYPはプラハの中心部にあり、劇場や旧市街広場、伝統料理を楽しめるレストランなど、主要なスポットに徒歩でアクセスできます。授業後は、毎日、カフェや劇場に通い、オーケストラ、室内楽、オペラ、バレエと芸術に浸る夢のような時間を過ごしました。学割で、オペラもわずか2,000円ほどで鑑賞できるのです。

チェコで暮らして驚いたのは、芸術鑑賞が生活の一部として定着していることです。特に印象的だったのが、高校生がオペラ鑑賞の授業にタキシードを着てくる、ドレスアップの文化です。とても素敵だと思いました。

バレエ鑑賞を通じて、日本からバレエ留学中の10代のバレリーナとも親しくなりました。「日本にはバレエを芸術の一分野として学べる小中高や大学がほとんどなく、習い事の次段階に進むには海外に行くしかない」という話を聞き、日本と世界のバレエ事情の違いを知るきっかけになりました。

また、父の旧友でチェコ在住の日本人ヴァイオリニストとの交流を通じて、現地の芸術家の方々と直接お話しする機会を得られたことは、私にとって大きな財産です。私が目指していたプロデューサー業についても、チェコでは国立の専門教育機関があることを知りました。

プラハでの生活を通じて分かったことは、ただ街中に芸術が溢れているというだけでなく、市民が手頃な価格で楽しめ、学校教育に本格的な芸術鑑賞が組み込まれているなど、自然と芸術を愛する聴衆が育つ土壌があるのだと実感することができました。

もっとチェコの文化や歴史に対する理解を深めたいと思い、休日は国内を旅したり、各地のお祭りに参加したりしていました。その体験で感じたのが、チェコ語を少しでも話せるかどうかで、現地の人との関係性の広がりが全く違うという現実です。

プラハ国立歌劇場。舞台横の席からは、オーケストラピットの熱気と歌手の息遣いまで感じられる

英語留学とはいえ、ビザ取得や日常生活のために最低限のチェコ語は日本で勉強していました。UNYPでも外国人対象のチェコ語のクラスを履修しましたが、文法が複雑で、発音が非常に難しく、少し勉強した程度では会話ができるようにはなりません。「チェコ語を少しでも話せるようになって、留学をより実り多いものにしたい。チェコ語を学びたい」という思いを両親に伝え、留学後期には大学と並行して3か月間、語学学校にも通いました。

簡単な自己紹介や意思疎通ができる程度の会話力ですが、「私はあなたの国を理解する意欲があります」という気持ちを示すことができ、チェコ人との距離感が一気に縮まることを実感しました

留学がきっかけでビール業界へ。人々のつながりを生み出したい

卒業後は、サッポロビール株式会社への就職が決まっています。そのきっかけとなったのは、1人当たりのビール消費量世界一を誇るチェコ留学です。チェコには、「ホスポダ」と呼ばれるビアパブが街中に点在し、友人や近隣の人々が集う団らんの場となっています。

留学中に二十歳を迎え、ホスポダに足を運ぶようになってから、お酒には単なる嗜好品以上の意味があることに気づきました。芸術鑑賞の後は、芝生に腰を下ろしてビールを片手に延々と談義をする、そんな光景がプラハの日常です。ビールは、人と人をつなぐコミュニケーションツールであり、その「場」を通じて、土地の文化や価値観を知ることができるのです。この体験は、私のキャリア選択に大きな影響を与えました。

通っていたホスポダ(ビール居酒屋)。町の至るところにあり、人々の交流を支えるチェコ文化の象徴

「それがないと生きていけないわけではないけれど、地域の文化となり、人と人とのつながりを生み出すもの」、お酒にはそんな側面があります。そして、その楽しみ方は、私がこれまで学んできた芸術と似ていると思いました。人々を結びつけ、文化を共有するための大切な要素という共通点に気が付いたとき、プロデューサー職にこだわらなくても、これまでの学びを生かせる場所があるのではないかと思いました。こうしたチェコ留学での気づきから、ビール業界に目を向け、自社でビール博物館を運営するなどビール文化の伝承に力を入れているサッポロビール株式会社に強い魅力を感じました。

サッポロビール株式会社のインターンシップで、社員の方々から「人との関わり合いを大切にする」エピソードをたくさん伺い、社風として根付いていることを実感しました。私もそんなふうになりたいという憧れを持っています。

入社後は、まず現場を知り、何が求められているかをしっかり学びたいと思います。そして、チャンスがあればブランドプロデュースやファンマネジメントなど、より多くの人に価値を届ける仕事にも挑戦したいです。

大学での学びの集大成となる卒業論文は、「大衆演劇ファンのエスノグラフィー」というテーマで執筆に取り組んでいます。エスノグラフィーとは、集団やコミュニティの文化や行動を深く理解するために、長期間その中に入り込み、観察やインタビューを行う「見る」調査手法です。大学入学を機に好きになった演劇文化、とりわけ「大衆演劇」について、ファンとしての視点から、観劇や遠征記録をもとに参与観察(研究者が対象者の生活に入り込み、行動を観察する方法)を行います。日本全国を旅する一座を様々な場所で観劇し、言語化されない部分にも迫る成果を出したいと考えています。

東京北区にある篠原演芸場にて(前列左から2番目が吉鶴さん)。竹内ゼミの活動で大衆演劇ワークショップに参加し、「劇団美松」の皆様の指導のもと、特別公演の舞台に立たせていただいた

これまでの学生生活を振り返ると、総合文化政策学部での学び、留学経験によって、社会をより豊かにする「文化」「芸術」の多様性、視野が格段に広がりました。また、人に頼り、助けてもらったからこそ実現できたことがたくさんありました。だからこそ、社会人になったら、人の縁を広げ、社会をより豊かにする仕事をしていきたいと思っています。

総合文化政策学部

青山学院大学の総合文化政策学部では、“文化の創造(creation)”を理念に、文化力と政策力を総合した学びを探究。芸術・思想・都市・メディアなどの広範な領域を研究対象とし、各現場での“創造体験”とともに知を深めていくチャレンジングな学部です。新たな価値を創出するマネジメント力とプロデュース力、世界への発信力を備えた“創造的世界市民”を育成します。
「文化の創造」を理念に、文化力と政策力を総合した学びを探究します。古典や音楽、映像、芸能、宗教、思想、都市、ポップカルチャーなどあらゆる「創造」の現場が学びの対象です。どうすれば文化や芸術によって社会をより豊かにすることができるのか。創造の可能性を模索し、自身のセンスを磨きながら、創造的世界市民として社会への魅力的な発信方法を探ります。

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