ボランティアで見えてきた地域の課題。小さなことでも、まずは私が行動に移したい
コミュニティ人間科学科 2年

OVERTURE
コミュニティに焦点を当てた学びに引かれ、コミュニティ人間科学部に進学した新亜子さん。市民協働プロジェクトでのボランティア活動で視野を広げ、現在はボランティアを周知・啓発する活動にも参加。サーバント・リーダーの姿を体現するように、精力的に活動を続けています。
授業やボランティアを通して地域福祉への関心が高まる
私は小学生の頃から幼稚園教諭になりたいと思っていました。しかし、高校生の時に放課後児童クラブ(学童保育)で職場体験をした際、ある児童が「今日お母さんは夜勤で帰りが遅いの」と寂しそうに話してくれたことがきっかけで、考え方が変わりました。保育の観点だけでなく、親の就労による家庭環境の制約や子どもの生活課題など、子どもを取り巻く環境全体を理解したいと思うようになったのです。

青山学院大学のコミュニティ人間科学部は、地域社会における多様な活動を学び、変化や課題に対応できるコミュニティ構成者の育成を目標に掲げています。私は子育て環境について学びたいという意欲に加え、もともと人と関わることが好きだったため、地域に存在する人やモノ、行動を多角的な視点で学ぶことができる点に魅力を感じ、進学を決意しました。
1年次の後期に履修した、横堀昌子先生の「地域福祉論」では、子どもから高齢者まで、全ての人を支える「福祉」について学びました。少子高齢化や核家族化が進む今日、多様な生きづらさや社会的孤立、地域連携力の低下など、さまざまな問題が進行していることなど初めて知ることが多く、私は地域に存在する課題について何も知らなかったことを痛感し、強い衝撃を受けました。だからこそ地域共生社会を創るためには、どのようなコミュニティワークが必要なのかを考えることが重要だと学びました。
特に印象的だったのは、コミュニティソーシャルワーカー・勝部麗子さんの活動に触れたことです。授業では、勝部さんの取り組みを紹介するドキュメンタリー映像を視聴しました。その中には、ごみ屋敷に暮らす方や、制度の狭間に陥った人々に働きかける勝部さんの活動が記録されており、その姿に深く感銘を受けました。
生活課題を抱えながらも支援につながっていない方々のもとへ自ら出向き、信頼関係を構築し、情報を届ける「アウトリーチ(訪問)」による支援を行っている姿に、心を打たれました。ごみ屋敷や中高年者のひきこもりなど、制度だけでは救うことが難しい「制度の狭間」にある問題が地域には数多く存在することを知り、地域福祉への関心が一層強くなりました。
地域福祉に目を向けるようになったきっかけは、もう一つあります。それはボランティア活動です。入学当初からボランティアに関心を持ち、シビックエンゲージメントセンターが提供する「市民協働プロジェクト」に参加しました。この活動は、地域団体や企業と連携し、学生が一市民として継続的に地域に関わりながら、社会課題の解決に向けて活動する長期ボランティアプログラムです。
私は「相武台団地*活性化プロジェクト」(*相模原市南区にある大型団地。近年、住民の高齢化が課題となっている)に参加し、相武台団地商店街の一角にある認知症対応型デイサービス「おとなり」を拠点に1年間ボランティア活動を行いました。利用者の方々と関わったり、商店街の季節イベントに参加したりする中で、地域にはさまざまな世代の人が暮らしており、お互いが関わり合うことで地域コミュニティが成り立っているのだという、当たり前のことに改めて気づきました。
相模原祭で、3つの「市民協働プロジェクト」のメンバーが集合(新さんは最前列左から2人目)。いずれのプロジェクトも、それぞれの活動テーマを軸に、青学生による地域に根差した社会貢献活動の輪を広げることを目指している
入学当初は、子どもの社会問題を深く理解したいと考えていましたが、この経験をきっかけに、今は世代間交流や地域福祉についてもさらに学びたいという気持ちが強くなっています。
目の前の人のために、できることをしたい
ボランティア活動に参加してみようと思った動機は、「人と話すことが好き」「同じように地域福祉を学ぶ友人がほしい」といったものでした。正直なところ、当初は福祉実践の意義や課題理解に高い意欲を持って取り組んでいたわけではありませんでした。しかし、利用者の方とお話をする中で、次第に生活課題が見えるようになっていきました。
七夕の日のことです。私は小さい頃から習字を習っており、現在も大学の書道研究部で活動していることもあり、デイサービスで短冊の代筆を担当しました。ある利用者の方が、私が書いた短冊を見て、「なんて綺麗な字なの。名前もこんなに丁寧に書いてもらったのは初めてよ、ありがとう」と涙を浮かべながらとても喜んでくださり、ご自身のハンカチで短冊を包んで持ち帰ろうとする姿に触れました。
自分の何気ない行動でここまで人を喜ばせることができるのだと実感し、嬉しい気持ちでいっぱいになりました。
しかし、その直後、その方が小さな声で「今は楽しいけれど、家に帰ったらまた一人で泣かなきゃいけないわ」とつぶやいたのです。デイサービスのような居場所では楽しく過ごせていても、家ではひとりで寂しい思いをしている方が地域にはいる。その現実を知った瞬間でした。今でもその言葉が忘れられません。
コミュニティ人間科学部では、授業で地域課題に関する事例を取り扱うことが多く、学んだ知識をボランティア活動の現場で体感することができます。
一方で、ボランティア活動を通じて感じた違和感や疑問、問題意識については、自主的に本で調べたり、先生に質問したり、友人と話し合ったりすることで、背景にある課題をより深く理解するよう心掛けています。授業での学びとボランティアでの実践が互いに結びつき、相互に作用しながら好循環を生み出すことで、自然に「もっと学びたい」という意欲が高まり、その意欲が、目の前の状況に対して「何か自分にできることはないか」「この状況を改善したい」という思いへとつながり、学習への原動力になっていると感じます。
2年次前期に履修した青山スタンダード科目の「ボランティア・市民協働論」では、さまざまなボランティア団体の活動や、過去にボランティア活動を経験された先生のお話を通じて、社会的課題に向けた多様なアプローチを学ぶことができました。これまであまり関心をもっていなかった分野でも、地域課題に取り組む人がいることや、実際の運営で生じる課題を知ることで、地域福祉に関する視野と知見が大きく広がったと感じています。
コミュニティ人間科学部の授業では、地域の身近な問題に着目して行動している多くの事例が紹介されるので、学んだアプローチ方法を参考にしたり、紹介された事業について自分で詳しく調べたりして、その学びを自分の活動に生かすようにしています。
大学の書道研究部で新しい書体に挑戦したいと、かな文字の柔らかな雰囲気に魅力を感じ、ゆったりとした気持ちで取り組んだ創作作品。題材は、小林一茶の句『ゆく秋や つくづくおしと 蝉のなく』(夏の終わり、まるで季節を惜しむかのように蝉が鳴いている――移ろう秋の物悲しさを表した句)
また、2年前にコミュニティ人間科学部の先輩方が創設した学生団体「ゆめどこ」にも所属しています。「ゆめがカタチになるところ」という活動理念を掲げ、子どもたちがダンボールで自分の背より大きな家を作ったり、手を絵の具だらけにしながら水族館を作ったりと、おうちではできないような自由で大きな工作を通して、「子どもたちにワクワクをお届けする活動」をしています。
学生スタッフとしてボランティアの普及に奔走
2年次になって、これまで続けてきたボランティア活動に加えて、シビックエンゲージメントセンターの学生スタッフとして、青学生に向けたボランティアの周知・啓発活動に取り組んでいます。
シビックエンゲージメントセンターが開設されたのは2022年、まだその存在自体が十分に知られていません。ボランティア活動に興味を持っている学生に情報が届いていないという課題があります。私自身のボランティア経験を生かして何かできることがあるのではないかと思い、学生スタッフに加わることにしました。
ポスターなどを掲示しても、なかなか学生の目に留まらず、周知にはあまり効果がないと感じました。そのため、まずは身近な友人たちに私のボランティア体験について話すことから始めています。効率的な方法ではないかもしれませんが、私=“ボランティアの人”と認識してもらい、ボランティアに親近感をもってもらえるよう、興味を持ちそうな人に一人ずつ伝えるようにしています。
ボランティア活動を広報する立場になった今、伊藤真木子先生の「地域福祉教育論」の授業には、より一層力を入れて臨んでいます。地域福祉教育とは、地域でのボランティア体験などを通して、自分の地域の身近な課題に気づき、その解決方法を考え、行動する力を養うことを目的とした取り組みだと理解しています。
私は、学生スタッフの広報活動も地域福祉教育の一環だと考えました。授業の中で、伊藤先生にお時間をいただき、シビックエンゲージメントセンターが主催する認知症サポーター養成講座の紹介をしました。その際、ファミリーレストランでのアルバイトをしていたとき、認知症の可能性がある奥様を持つご夫妻とのやりとりについて話しました。
ある日、初めて接客した女性のお客様から、「いつもいつもありがとうね」と、まるで以前から私を知っているかのように声をかけられました。隣にいたご主人が、どこか気まずそうに、申し訳なさそうな表情をされていたことが印象に残っています。その瞬間、相武台団地活性化プロジェクトで認知症の方と関わった経験が思い起こされ、「もしかすると、この方も認知症なのかもしれない」と感じました。どう答えるべきか一瞬迷いましたが、否定することはしたくないと思い、「いえ、いつもありがとうございます」と笑顔でお伝えしました。すると、奥様はにっこりと笑い、ご主人の表情もふっと和らぎました。最後にはご主人から「ありがとうございます」と声をかけていただきました。
この経験を通して、認知症の当事者だけでなく、そのご家族も不安や孤独を抱えている現実を垣間見るとともに、「こんな小さな一言で、人の心を安心させることができるんだ」という気づきを得ました。
このエピソードを皆の前で話したところ、「自分ごととして捉えられるようになった」というコメントが多く寄せられ、授業後には、「実は前からボランティア活動に興味があった」と話しかけてくれる学生もいました。
この経験を通じて、専門職の知識がなくても、状況を理解し改善したいという気持ちがあればできることはある、と実感しました。そして、そのことを知ってもらい、ちょっとした行動をする人を増やすことが、地域福祉教育が目指すところだと実感しました。
学生団体ゆめどこ(新さんは左から4人目)
自分自身が誰かの行動を促すきっかけになれたら
シビックエンゲージメントセンターは、青山学院のスクール・モットーである「地の塩、世の光」を体現するサーバント・リーダーの育成を目的に設立されました。私が考えるサーバント・リーダー像は、「人とのつながりを大切にしながら、自ら行動する姿で他者の行動を促す人」です。
私は、言葉で指示するのではなく、同じ目線に立ち、率先して行動することを重視しています。その姿が、他者の一歩を踏み出すきっかけになると信じています。ボランティア活動でも、ただ「やってみてください」と言うのではなく、まず自分が挑戦し、試行錯誤しながら取り組むことで、自然と「私もやってみようかな」と思う人が生まれるのではないか、と考えています。私の行動が誰かの背中を押せたら嬉しいです。
この考えは、友人に誘われて通うようになった礼拝で触れたイエスの「隣人を自分のように愛しなさい」という教えと、「ボランティア・市民協働論」の授業で学んだ知見をもとに、自分なりに深めたものです。
今後は、地域で孤立している人々にも目を向け、人の居場所となり、人と人のつながりがうまれるような場を作る活動に取り組みたいと考えています。その一環として、シビックエンゲージメントセンターの「ボラカフェ」(ボランティアカフェ)の枠組みを使い、ヤングケアラーをテーマにした講座の企画をセンターの学生スタッフとして行いました。現在、講座の実現に向けて、シビックエンゲージメントセンターの三神憲一先生や水谷耕平先生に相談しながら準備を進めています。
また、学生スタッフとして活動する中で、身近な友人にボランティアの話をする機会が増え、興味を持っている人が意外と多いことに気づきました。シビックエンゲージメントセンターと学生をつなぐ役職があるからこそできることもたくさんあります。これからは、この立場をもっと生かして、活動の幅を広げていきたいです。
ボランティアをしているというと、「偉い」「真面目だ」と言われることがありますが、それは「無償で何かをしてあげる」というイメージが強いからだと思います。しかし、ボランティアは、決して一方通行の行為ではありません。私にとってボランティアは、誰かとつながるきっかけであり、相手のために行動することで、自分自身も喜びや達成感を得られる活動です。関わった方から「ありがとう」と言われると、「今日あなたと出会えてよかった」と言われているように感じ、心があたたかくなります。自分の存在が誰かの1日に良い影響を与えられたという喜びは、ボランティアならではのものだと思います。
ボランティアの原動力は、特別なものではなく、小さな問題意識や気づきです。授業で触れた地域課題、友人や家族の話、街で見かけた出来事、あるいはたまたま参加した活動。きっかけは人それぞれですが、知ることができたなら、あとは一歩踏み出すだけだと思います。ボランティアは強制されるものではありません。でも、ひとたび参加すれば、人と出会い、つながり、その中で生まれた気づきや問題意識が次の行動につながっていきます。そんな連続の中で、自分の世界や視野が自然と広がっていくはずです。
黒岩裕先生(中央)の指導のもと活動する「青学国際子ども食堂」は、相模原市内の小学生に外国の料理を通じて異文化に触れる機会を提供している。理工学部の外国人留学生(最前列左)が上海料理を提供する前に行なわれたリハーサルを兼ねた試食会の様子(新さんは最前列右)
もし少しでも興味があるなら、まずはやってみることが一番だと思います。そこでの出会いや感情の共有が、きっと新しい一歩につながるはずです。
コミュニティ人間科学部
コミュニティ人間科学部では、日本国内の地域に着目した社会貢献を追究し、地域文化とそこに暮らす人々の理解を深め、より良いコミュニティ創造に寄与する力を培います。幅広い知識の学び、体験し行動するプログラムを通じて、自ら課題を発見・解決し、地域の人々との互助・共助のもとにコミュニティの未来を拓く力を育成します。
日本の地域社会は、高齢化や過疎化などさまざまな課題に直面しています。その解決に力を発揮するには、地域の人々に接し、活動の実際を知り、共感する体験が重要です。コミュニティ人間科学科では、地域の人々や行政についての学びをはじめ、市町村やNPOと連携した体験的実習などを展開。専門的知識や技術をもつ職業人として、地域の活性化や持続的な活動支援ができる人材を育てます。









































































































































































































