アートを社会実装し、渋谷で課題解決に多角的に挑む

掲載日 2026/4/27
No.390
&&HOLDINGS/太平洋商事株式会社 メディアプロモーション事業部 事業部長 他
総合文化政策学部 総合文化政策学科 2021年卒業
森 陽菜

OVERTURE

渋谷を舞台に、関心を次々と事業へと変換する森陽菜さん。アートを通じて社会課題に向き合い、街を使った企画やコミュニティー運営、女性の人生の選択肢を広げることをテーマにしたメディア編集長まで活躍は多層的。在学中の巨大壁画制作や舞台女優の経験が原動力となっています

境界を越え続けながら、
社会に価値を生み出す独自の立ち位置でありたい

渋谷のまちづくりを推進する不動産コンサルティング企業で、メディアプロモーション事業部長を務めながら、アート×社会課題を軸とした活動に取り組んでいます。その中核となっているのが、「渋谷の落書き問題の解決」×「若手アーティスト支援」を同時に実現する広告/アートプロジェクト「shibuya-canvas」の企画・運営です。不動産オーナーにとっては所有する建物の美観向上、広告掲出主にとっては渋谷という価値ある場所での発信機会、そして私たちにとっては若手アーティスト支援という社会貢献と事業の両立、関係者すべてにメリットをもたらすイノベーションを創出できたと自負しています。

渋谷センター街の街並みに溶け込む広告アートプロジェクト「shibuya-canvas」の展示風景。アーティスト︓下山明彦

この取り組みは、舞台女優やダンサーとしてフリーランスで活動してきた私自身の経験から発案し、&&HOLDINGS/太平洋商事株式会社への業務委託という形でスタートしました。広告主から得た利益の一部を、アーティストの創作活動へ還元する仕組みを構築し、展示機会の創出と直接的な支援を実現。プロジェクトが軌道に乗り、正式な事業部として立ち上がったタイミングで事業責任者として正社員になりました。

社外では、アートと社会をつなぎ、創造力で課題解決を目指す一般社団法人サステナブル芸術創造機構の代表理事を務めています。私は、アートが持つ社会的な意義や価値を「想い」だけで終わらせず、持続可能なものとして成立させることを大切にしています。企業のCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)や地域活性化などと連動した共創プロジェクトに関わる機会も多く、アートを通じて社会と企業、人をつなぐ役割を担っています。

さらに、私がもう一つ力を入れているのが、妊娠前の健康を考える「プレコンセプションケア」の啓発です。プレコンセプションケアとは、WHO(世界保健機関)が「妊娠前の女性やカップルに対して行う、医学的・行動学的・社会的な健康支援」と定義している考え方です。難しく聞こえますが、広い意味では、将来の妊娠の可能性も視野に入れながら、若いうちから男女ともに心と体の健康を大切にすることを指します。妊娠を今すぐ考えていなくても、自分の体を知り、人生設計と向き合うための基礎として、近年注目が高まっています。

もともとジェンダー問題に強い関心があり、中高生の頃から関連する活動に参加してきました。転機となったのは、セミナーでプレコンセプションケアを知ったことです。自分が思い描くライフプランと、女性としての身体的な現実を両立させることの難しさを痛感しました。学校では十分に学ぶ機会のないテーマだからこそ、誰かが伝えなければならない、と奮い立ち、不妊治療等に関するサービスを展開する企業が運営するwebメディア「n/[エヌスラッシュ]」の編集長を務めています。若者が身体のことを人生設計の一部としてとらえ、自分なりのライフデザインを描いてほしいと願っています。

また、こうした社会課題に対する関心は国内にとどまらず、世界経済フォーラムの傘下にある若手組織「Global Shapers Community」の活動にも参画しています。多様なバックグラウンドを持つメンバーとの対話を通じて、ローカルな実践をグローバルな視点で捉え直す機会を得ています。

大阪・関西万博 テーマウィーク「私たちはなぜ学ぶのか︖——教育と遊びから見つめる『学び』の本質 -Agenda2025 共創プログラム」に登壇(右から3人目が森さん)

私は、自分のキャリアを「ポジティブな寄り道」の積み重ねだと捉えています。「アート×社会課題」の軸を持ちつつも、興味の赴くままに幅広く挑戦してきた一つ一つの経験は、想像以上に大きな学びとなり、結果として今の仕事や生き方へとつながっています。目の前に現れたチャンスやご縁に対して、たとえ未知の分野であっても「せっかくだからやってみよう」と向き合ってきました。その積み重ねが、今の私を形づくっています。そんな私の生き方について、学部2年次のゼミでご指導いただいた竹内 孝宏先生と卒業後、お目にかかった際、「棚からぼたもち」をもじって、「君は次々に落ちてくるぼたもちを全部拾っているね」と言われたことがあります。根底にあるのは、「有能な変わり者」でありたいという思いです。少し特殊な働き方を選びながらも、「社会をより良くしながら、利益を生み出せるビジネスの力」は持ち合わせていたいと考えています。

大学での巨大壁画制作を通して培われた「社会実装力」

今の活動の原点となったのは、高校時代に地元・静岡市で参加した演劇プロジェクト「ラウドヒル計画」です。「静かな岡=サイレントヒル」ではなく、誰もが集える「にぎやかな岡=ラウドヒル」を目指し、舞台芸術を通して、SDGs推進やバリアフリー、市民参画、社会包摂、そして地方文化の醸成を体現する試みでした。このプロジェクトに関わる中で、私は文化芸術が社会に与える影響の大きさや可能性、芸術と経済・社会をつなぐ「アートマネジメント」の重要性を実感しました。

その学びをさらに深めたいと進学先を探していたとき、親友が手渡してくれたのが青山学院大学総合文化政策学部のパンフレットでした。表現活動と経済的マネジメントを横断的に学べるカリキュラムは、まさに私が求めていたものでした。オープンキャンパスの歓迎礼拝で耳にした「地の塩、世の光」というスクール・モットーに心を打たれたことも、入学の決め手になりました。

幼少期からバレエやミュージカルなど数多くの舞台経験を重ねる。高校時代に参加した「ラウドヒル計画」ではヒロインを演じた

大学生活の中で大きな転機となったのは、2年次から約2年にわたり、有志で取り組んだアートプロジェクトです。青山学院の新経営宣言「Be the Difference」を学内に浸透させることを目的に、香取慎吾さんに壁画アートの共同制作への協力をお願いし、学内に巨大な壁画を制作するプロジェクトを主導しました。

青山キャンパス記念館門から入構すると正面に現れる巨大壁画「Be the Difference」と森さん

前例のない取り組みだったため、ゼロから道を切り拓くプロセスは困難の連続でしたが、仲間と何度も議論を重ね、粘り強く企画を形にしていきました。この経験を通して、アートを社会やビジネスの文脈で機能させる「社会実装力」が身に付き、現在の仕事につながるスタイルを確立できたと感じています。単なる表現にとどまらず、制度や経済と接続することで初めて社会にインパクトを生むという視点は、この頃に培われました。

壁画アートのお披露目を目前に、現場で慌ただしく準備を進めるプロジェクトチームの姿

また、高校から大学にかけて続けた舞台女優・ダンサーとしての活動や、卒業後に進学した地元の静岡文化芸術大学大学院修士課程で、舞台芸術を経済的な観点から研究した経験も、今の私を支える大切な糧となっています。

「まちづくり」ではなく「まちづかい」渋谷を拠点に、
人と街の接点をデザインする

大学進学を機に静岡から上京し、当初は電車で通学していましたが、大学に近い環境で過ごしたいと思うようになり、青山キャンパスから徒歩数分の場所に引っ越しました。部屋は決して広くありませんでしたが、渋谷に住んだからこそ、数えきれないほどの出会いに恵まれたと感じています。アルバイトをしていたコーヒーショップには、地元住民や近隣で働く常連客が多く、自治会と一緒にごみ拾いなどの地域活動にも参加するようになりました。そうした日々を通して、渋谷コミュニティーの温かさと魅力にどんどん引き込まれていきました。都会は冷たい場所だという先入観は、完全に覆されたのです。この経験が、渋谷という街そのものに目を向けるきっかけにもなりました。渋谷の一番の魅力は「人」だと思っています。多様な人が交差するこの街の構造そのものに、文化が生まれる土壌があると感じています。代表を務める「渋谷新聞」「原宿表参道新聞」というローカルメディアを地域と連携して運営するなかでも、町内会や商店街組合の方々の深い地元愛にふれるたびに、強い共感を覚えています。

現在は、渋谷の再開発における協議会にも参画しています。渋谷の街に関わる人々にとって、「カルチャーを生み出す人の活動」と「安心安全な街」を両立させていくための道しるべを描くものです。街が大きく変貌を遂げていく過程に立ち合えることに、大きな喜びと責任を感じています。これまで出会ってきた人や経験を糧に、これからも愛してやまない渋谷を拠点に、アートの力で社会課題に向き合い続けていきたいと考えています。

多様なアイデアと社会の未来をつなぐ「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2025」。渋谷から新たな文化・産業を生み出す“ソーシャル&カルチャーデザインの祭典”で行われたトークセッション「渋谷に集まる若者、地元愛を叫ぶ」にて、ファシリテーターを務める

私の将来的な夢は、研究者・指導者の養成を目的とする本学大学院 総合文化政策学研究科の総合文化政策学専攻(5年一貫制)に3年次編入学し、博士課程で文化やアートを通じて、人や地域のつながりを生み出し、まちづくりにつなげる研究に取り組むことです。現在は、学部で学んだことを社会の中で実装している段階ですが、その経験を踏まえたうえで、あらためてアカデミアの世界に戻りたいと考えています。文化政策的な視点から都市計画を研究し、理論と実践を往復しながら知見を深めていくことが目標です。そして最終的には、青山学院大学の教員として教育・研究に携わりたいと思っています。社会課題は、一人の情熱だけでは解決できません。だからこそ、自分自身の経験を体系的な知として整理し、母校に還元することで、次世代の担い手を育てていきたいと考えています。

私は高校時代に、ある程度「やりたい分野」を見つけることができましたが、まだ「やりたい分野がわからない」と感じている高校生の皆さんも多いと思います。そんな時は、自分の「好き」を話せる空間を見つけてみたり、興味のあるコミュニティーに参加したりと、自分の居場所を少しずつ増やしてみてはいかがでしょうか。さまざまな人や価値観に触れることで、ものごとを多面的に捉えられるようになり、自分の選択肢も自然と広がっていきます。新しいことに挑戦し、未知のフィールドへ一歩踏み出す勇気を、ぜひ大切にしてほしいと思います。

卒業した学部

総合文化政策学部

青山学院大学の総合文化政策学部では、“文化の創造(creation)”を理念に、文化力と政策力を総合した学びを探究。芸術・思想・都市・メディアなどの広範な領域を研究対象とし、各現場での“創造体験”とともに知を深めていくチャレンジングな学部です。新たな価値を創出するマネジメント力とプロデュース力、世界への発信力を備えた“創造的世界市民”を育成します。
「文化の創造」を理念に、文化力と政策力を総合した学びを探究します。古典や音楽、映像、芸能、宗教、思想、都市、ポップカルチャーなどあらゆる「創造」の現場が学びの対象です。どうすれば文化や芸術によって社会をより豊かにすることができるのか。創造の可能性を模索し、自身のセンスを磨きながら、創造的世界市民として社会への魅力的な発信方法を探ります。

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