知的好奇心を原動力に、文系の視点で、人の心を読むマーケティングデータ分析に挑む

掲載日 2026/6/26
No.397
〈2025年度 学生表彰受賞〉
経営学研究科 経営学専攻 博士後期課程 2年
羽鳥 なの香
私立N高等学校出身

OVERTURE

大学3年次に研究に興味を持ち大学院進学を検討、4年次に大学院科目特別履修制度を利用した後に進学、博士後期課程では2025年度日本分類学会*の優秀学生発表賞を受賞した羽鳥なの香さん。データサイエンスにも視野を広げ、データ分析で社会課題に挑む研究の魅力と展望を伺いました。

*日本分類学会…データ科学(統計学、多変量解析、機械学習など)に基づいて多様な対象を分析・分類する手法や、その基礎理論を研究・推進する学術団体

「共感」を軸に、定量化が難しい感情を分析する研究

現在、経営学研究科 経営学専攻 博士後期課程でマーケティングデータ分析に関する研究に取り組んでいます。研究対象としているのは、育児中の母親が利用するオンライン掲示板です。そこに投稿される大量の質問や悩み、そしてそれに対する回答を分析し、人の感情の動きをデータとして捉えることを試みています。一般的に、感情は数値化しにくい「定性的なもの」と考えられています。そうした感情のやり取りを、あえてデータとして扱い、定量的に分析しようとしている点に特徴があります。

この掲示板は、妊娠・出産・育児に関する情報を提供するサービスの一部で、母親同士が日々の不安や疑問を共有する「場」でもあります。投稿を見ていると、同じような相談であっても、求めているものは一様ではありません。具体的な解決策を求めている場合もあれば、「私の気持ちをわかってほしい」というような「共感」してほしい思いが前面に出ている場合もあります。私はこの「共感」に着目しています。どのような言葉のやりとりが共感を生み、安心感につながるのか、その特徴をデータとして分類・分析することで、より適切な関わり方の手がかりを見出せるのではないかと考えています。より具体的には、投稿内容から「共感を求めている質問や悩み」と「そうではないもの」を自動で分類する方法の開発に取り組んでいます。分析の精度を高めることで、感情やニーズをより適切に捉え、現実に即した理解につなげていきたいと考えています。こうした研究は、「2025年度 日本分類学会シンポジウム」において「優秀学生発表賞」を受賞し、青山学院大学での学生表彰にもつながりました。

学生表彰での記念の1枚

データ分析で、無機質な数字の先に人の生活や心理が見えてくる

そもそも私がマーケティングに興味を持ったのは、高校生のとき、好きだったアイドルグループの売り出し方に疑問を持ったことがきっかけです。売り出し方の路線変更で、それまで魅力に感じていたメンバーの高い身体能力を生かしたアクロバットの演出、ダイナミックな要素が減ったことにファンとして納得がいかず、「何かを売り出すとはどういうことなのか?」と考えるようになりました。インターネットで情報を調べるなかで、「売り出し方を考える方法がマーケティングである」と知り、大学ではこれを学ぼうと決め、青山学院大学の経営学部に進学しました。

経営学部でマーケティングを学ぶうち、とりわけ印象に残ったのは、数字を通して客観的に事実を捉えられる点でした。3年次からは、マーケティングデータ分析を扱う横山暁先生のゼミナール(ゼミ)に所属し、本格的にデータ分析に取り組むようになります。最初に行ったグループ課題は、コンビニエンスストアの売上データを用いて、商品の売れ方の特徴を分析する課題でした。炭酸飲料の中で、私自身が愛飲していたある銘柄に注目して、「いつ・どこで・どのような人が・何と一緒に購入しているのか」を分析したところ、その商品は、他の炭酸飲料と一緒に購入されることが多いという特徴や事実が見えてきました。この結果から、グループではこの銘柄を「最強の二番手」と結論づけました。自分たちで立てた仮説をデータによって検証できること、さらに予想していなかった意外な事実に出会えることに大きな面白さを感じ、次第にデータ分析に夢中になりました。

当初は、数字によって客観的に現状を捉えられる点にデータ分析の魅力を感じていましたが、多種多様な分析を重ねる中で、売上がただの数字の増減ではなく、その背後には常に人の行動や心理があることにも気づきました。例えば、「脂肪の吸収を抑えるお茶はチョコレートと一緒に購入されている」というデータからは「健康や体型を気にしながらも甘いものを楽しみたい」という消費者の心理を読み取ることができます。ヒット商品やいわゆるSNS上での「バズり」も、人の行動の積み重ねによって生まれる現象です。一方で、数字を見るだけでは「なぜそのような行動が生まれたのか?」という背景までを十分に理解することはできません。だからこそ、データの背後にある状況や心理状態を想像し、それをどのように解釈するかが重要と考えています。人の行動は一つの価値観だけで説明できるものではなく、それぞれの生活環境や経験、文化によって形づくられています。そうした多様な前提を踏まえて捉えなければ、データから見えてくる意味も偏ったものになってしまいます。そのため、自分一人の視点にとどまらないよう、社会に対する知識を広げることを意識しています。自分のライフスタイルでは必要としない商品の売り場に足を運んだり、異なる背景を持つ人と積極的に会話したりすることで、できるだけ多様な視点を取り入れることを意識しています。

一般的に、データ分析は理系の分野という印象を持つ人も多いと思います。実際、学会などで目にするデータ分析に関する研究は、非常に精度の高い分析や高度な数学的理論に基づいていて、圧倒されることも少なくありません。一方で、人の行動や心理を読み解くには、それを単なる数値として捉えるだけでは不十分です。データに表れている結果の背後にある背景や文脈を正しく想像し、それがどのような意味を持つのかを考える必要があります。さらに、その知見を社会でどのように実装していくのか? まで見据えることが重要だと感じています。そのためには、社会学や心理学、経営学などの視点は大きな役割を果たします。私にとっては、こうした視点こそがデータ分析に取り組むうえでの「強み」になると感じています。

学部4年次、長野県立科町の女神湖で行われたゼミ合宿にて

理論を求めて踏み出した、大学院科目先取り履修制度という選択

このような考えに至った背景には、学部3年次での学びがあります。横山ゼミでデータ分析の経験を積む中で、次第に「なぜその結果が生まれるのか?」を説明することの重要性を強く感じるようになりました。経験や直感だけでなく、理論に基づいて考えることが不可欠だと気づいたのです。

そうした問題意識を感じていたとき、横山先生から「大学院科目特別履修制度」を紹介していただきました。学部4年次に大学院の授業科目を最大8科目(16単位)まで先取りして履修できる制度で、追加の学費もかかりません。高度な知識に触れられる貴重な機会となる、この制度を利用しない理由はないと考え、活用することにしました。

実際に先取り履修した大学院の授業は、学部での学びとは大きく異なっていました。「マーケティング特論研究Ⅰ・Ⅱ」や「消費・購買行動研究Ⅰ・Ⅱ」などを履修しましたが、いずれも教科書や論文をもとに発表と議論を繰り返し、自分で考え、考えを他人と共有する演習形式で、密度の高い指導を受けることができました。全員が発言しながら議論を深めていくスタイルは、自分の理解をその場で確かめ、広げていくことにつながり、大きな刺激を受けました。こうした能動的な学びのスタイルは、私にとても合っていると感じました。学部生のうちから大学院の授業の履修することによって複数の学びに触れたことで、知識にとどまらず、物事を多面的に捉える力が身に付いたと感じています。

学部卒業式にて。ゼミの指導教員の横山教授(右)と、お世話になった土橋治子教授(左)

一方で、大学院生に交じって学部生が授業を履修するためには、それまで経験のなかった原書の文献を読み込み、それに基づいて発表資料を作成する必要があり、準備には多くの時間と労力を要しました。最初は苦労しましたが、文献を丁寧に読み、自分の言葉で整理するプロセスを繰り返すことで、理解が確実に深まっていくことを実感しました。また、先生方との距離が近く、質問をしやすい環境や、授業外でも議論を深められる点も魅力でした。十分な時間をかけて準備に向き合い、学部のゼミでのデータ分析にも妥協せず取り組んでいた当時は決して負担が少ないとは言えませんが、それ以上に得るものの大きい経験だったと感じています。

こうした学びは、研究活動にも良い影響を与えました。理論を踏まえて考えられるようになり、分析の視点が広がり、議論の質も変わっていきました。横山先生は常々「データ分析では手持ちのカードを増やそう」と言われます。ここでいう「カード」とは、分析手法や扱えるデータ、ツールといった技術的な要素に加え、理論的な知識や思考の枠組みも含まれます。そうした材料が増えることで、物事を捉える視点が多層的になり、より適切な解釈へとつながっていきます。実際に、自分の中に「考えるための材料」が増えたことで、同じデータを見ても異なる角度から考えられるようになり、ゼミ内での議論も一層活発になりました。結果の受け止め方に幅が生まれたことは、大きな変化だったと感じています。

大学院の先取り履修での学びが刺激的だったことから、学部卒業後は博士前期課程に進学しました。横山先生の指導のもとで研究を進めるとともに、芳賀康浩先生の「ソーシャル・マーケティング演習Ⅰ」や、久保田進彦先生の「ブランド演習Ⅰ」など、マーケティングに関する多様な内容に触れることで、理論の捉え方や思考の視点が大きく広がりました。先取り履修で単位を修得していたこともあり、前期課程は1年間で修了し、そのまま後期課程へと進みました。大学入学当初は、大学を卒業したら企業等に就職するつもりで、大学院への進学は全く考えていませんでした。しかし、「もっと知りたい」という純粋な関心から大学院の世界に一歩踏み出したことが、結果として現在の進路につながっています。先取り履修制度は、将来の大学院進学を前提としなくても、知識を深める機会として活用できる点に大きな意義があると感じています。私自身も制度を利用するまでその存在を知りませんでした。だからこそ、こうした選択肢があることを、より多くの学生に知ってもらえればと思います。

優秀学生発表賞を受賞した日本分類学会シンポジウムでの発表の様子

「何かを成し遂げる」より、「面白い」「気になる」を大切に。関心の延長線上で続く探究

アイドルの売り出し方に疑問を持ったことをきっかけにマーケティングを学び始め、データ分析の面白さに引き込まれ、「もっと知りたい」という思いのままにここまで歩んできました。感情を分析するためには、既存の分析ツールを使うだけでなく、自分でプログラミングを行う必要があると考えて、Python*を学びスキルを上げていきました。その過程で、理系の研究者とも競うコンペティションに参加し、結果としてデータサイエンスの領域にも携わることになりました。最初から「スキルを身に付けよう」と考えた結果ではありません。「掲示板の質問者の感情をもっと深く理解したい」という思いに導かれ、その都度必要なことを学んできた結果だと感じています。

* Python…1991年にオランダのITエンジニア、グイド・ヴァン・ロッサムによって開発されたプログラミング言語。文法がシンプルで分かりやすく初心者でも扱いやすい特徴があり、科学技術分野をはじめ、データ分析やAI、Web開発など幅広い用途で活用されている。

博士前期課程に在籍中に参加した日本行動計量学会にて

振り返ると、「何かを成し遂げる」というよりも、「面白い」「気になる」という感覚に従って一歩を踏み出してきた積み重ねが、今につながっているように思います。高い目標でハードルを上げなくても、踏み出してみればスキルやキャリアは後から自然についてくるものです。これからも、マーケティングとデータ分析の知見を生かしながら、人の心の動きを捉え、社会の課題にどのように向き合えるのかを考え続けていきたいと考えています。将来についてはまだ具体的に定めきれていませんが、人の気持ちに寄り添う視点を大切にしながら、関心の延長線上で探究を続けていきたいと思います。

7年間通った青山キャンパスには愛着があり、季節ごとに変わる表情を楽しみによく写真を撮っている。左が2026年春の桜、右が2024年秋の銀杏

経営学部 経営学科

経営学部は「マネジメント」(経営管理)を中心に学ぶ学部です。青山学院大学の経営学部では、優れた研究者が教員として揃う質の高い教育環境のもと、企業や組織、ひいては個人をマネジメントするために必要な経営学の知識を、体系的に身に付けられるカリキュラムを用意しています。デジタル化時代に応えるべくデータ分析にも力を入れており、その学びを通して論理的思考力を養います。
半世紀の歴史を有する経営学科では、企業や組織におけるマネジメント活動で必須となる理論と実践を学びます。経営・会計・マーケティングの基礎的学習を踏まえ、多様な専門科目を履修することで、新時代の企業活動を読み解くことのできる、より深いマネジメントの理解に至ります。演習などを通じて主体的な学習を重ね、研究成果をまとめ、社会に発信する技術も手にできます。

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