掲載日 2026/6/12

地球社会共生学部 地球社会共生学科
「戦争と平和」は人間学。それぞれの関心やテーマを議論し、共感力、冷静な思考力、そして対話力を身に付ける

熊谷教授からの
Message

地球社会共生学部 地球社会共生学科 教授
熊谷 奈緒子

戦争は人間が始め、そして終わらせるものであり、直接間接に多くの人々に甚大な被害をもたらします。そうした観点からは、「戦争と平和」についての研究は、「人間学」であるとも言えます。熊谷ゼミナール(ゼミ)では各学生にとっての「戦争と平和」を互いに学び、語り合うことで、戦争の有様をより広く深く知り、平和を目指した地に足の着いた議論を積み重ねていきます。そこでは共感力、冷静な思考力、そして対話力を向上させることが重視されます。

Q.ゼミナール(ゼミ)での学習内容を教えてください。

本ゼミのテーマは「戦争と平和」です。多くの人にとって関心のあるテーマだと思います。私自身は小学生のときに戦争映画「ガラスのうさぎ」に大きな影響を受けました。太平洋戦争末期にアメリカ軍の機銃掃射で父親を失った少女を描いた実話に基づく作品です。空爆の恐ろしさや、戦争で一般市民が命を落とし、幼い子供が孤児になる理不尽への怒りや悲しみを当時は抱きました。中学・高校と進学するにつれて、旧日本軍の戦時中の行い、日本の外のアジアの人々への甚大な被害についても学びました。戦争への憤りや恐れの気持ちは、次の戦争はいつ起こるのか、そもそもなぜ戦争が起きるのか、いかにすれば平和を維持できるのかという問いへと次第に変わっていきました。

今日、国家間戦争が再び増加しつつあり、一方で各地の内戦や民族紛争は私たちの予想以上に長引き、人々に理不尽な思い、深い悲しみや深刻な被害をもたらし続けています。国連をはじめとしたこれまでの人類の教訓の基に生まれたシステムは、その機能を十分に発揮できていません。

そうであるからこそ、戦争というものの本質を理解し、そして既存の紛争予防や解決の枠組みを学びつつ、既存のシステムを改良することを通じて戦争を未然に防ぎ、その解決策を練り、持続的な平和を創り出していくことが、大きな課題となっています。

本ゼミでは、その課題に取り組むべく、戦争の原因、予防、解決、持続的平和に関する概念や理論を学び、共に議論し、より効果的な政策を創造的に考えていきます。各民族が持つ正義感の間に折り合いをつけることの難しさに無力感を抱き、そもそも人間や国家は戦うものだと諦めを感じることもあるかもしれません。しかし、人間は利己的、攻撃的にも理不尽にもなる一方で、他者を思いやる心も持ちます。平和のための思索と努力は人類の歴史とともに存在し続けてきました。人間の複雑性、そして人間の集合体としての民族や国家をその歴史や文化や心理と共に理解し、限界と思われるものを叡智を以て超えていく知的な勇気と努力が大切です。私は「戦争と平和」は「人間学」であると捉えています。戦争は偶発的に、あるいは切迫した状況の中で自衛として開始されることもありますが、結局は人間が関与しているから続くのです。戦争の被害を受けるのも人間です。戦争を終わらせるのも人間なのです。

Q.学生を指導するうえで、どのようなことを心がけていますか。

ゼミは3年次からスタートします。学生たちはまずは自己紹介も含めて、戦争や平和へ関心を抱いたきっかけや関心のあるトピックについて、率直に語り合います。こうすることで、まず互いをよく知るための接点が得られます。また戦争や平和が想像以上の多様な意味を持つことも実感するでしょう。さらに、「戦争と平和」というテーマについての自分の考え自体について改めて明確に把握することもできるのです。

ゼミでは、基本文献や古典をきちんと読むこと、国際関係論の基本概念や理論を身に付けることを重視しています。学生たちはまずガルトゥングの平和学の文献から「平和」と「暴力」の様々な態様、定義を学び、人間、社会、そして国家を解剖学的に観察するための多様な視点を取得します。そこでは戦争の火種は平時に存在していることも学びます。人間の認識、考え方、言葉、そして行動が連鎖的に暴力、戦争に繋がっていることも理解するのです。概念や理論の学習に続いて外交史や政治体制の勉強もします。政治体制については、特に民主主義やファシズムの学習が中心となります。民衆が戦争の被害者になるだけではなく、時に戦争を扇動することに加担していることをも理解することは、戦争の予防を考えるためにも重要です。

授業では時間の許す限り、現在続いている戦争や内戦に関する新聞記事も多く読み、議論します。これは、同時代の人間として困難な状況に置かれている人々への追体験的理解と共感を深め、当事者意識をもって解決策を考える機会となります。また、兵士や戦災者の手紙や日記、そして回顧録なども読み、戦争の実態を多角的な視点から理解していくことを通じて、机上の空論や感傷的な同情に終始せずに考えていく力も養っていきます。

学生たちは、こうした学びの中で各自の研究テーマを徐々に絞っていきます。これまで学生たちが研究したトピックの中には、非核兵器地帯、戦時プロパガンダ、ポピュリズム、戦場における兵士の心理、戦争トラウマ、太平洋戦争の起源、戦後補償、AI兵器の人道問題、ロシアのウクライナ侵略、イスラエル・パレスチナ問題などがあります。

各自が研究を進めるにあたって、観察力、分析力、論述力の訓練を重視しています。そのために、クラスでは書くこと、そして対話することに重点を置きます。例えば研究課題設定のためのブレイン・ストーミングも、書くことで自分のアイデアを整理し体系づけ、自分が曖昧にしか理解できていないことにも気づけますし、書くことで思考が刺激されることもあります。最初は拙い表現でも良いので自分の言葉で自分の考えを言語化し、それを通じて思考が明瞭になり深まっていく感覚を得てほしいと思っています。そして、議論を通じた論理的思考はもちろんのこと、「対話力」も身に付けてほしいと思っています。自分の意見に対する異論に対しても、まずは相手の意見に耳を傾け、そして相手がなぜそのように考えるのかを冷静に知り、そこから得られる新しい知識や洞察を謙虚に受け止めることです。勿論反論することもあるでしょう。ただ、その際も相手を尊重した対話を続ける姿勢が大切です。最終的に同じ結論に至らない場合でも、互いの考えが違うことを認める、agree to disagree(アグリー・トゥー・ディスアグリー)の精神も重要です。

Q.学生に期待することや、卒業後の進路について教えてください。

ゼミ生の進路は、民間企業(建設、広告代理店、コンサルティングなど)、公務員や国内・海外大学院進学など多岐にわたります。どのような職業に就いても、良き人間として成長し続けてほしいと願っています。

青山学院のスクール・モットーは「地の塩」「世の光」です。塩のように人間の生存にとって必要で、かつ物を清めるという目立たなくとも社会にとって欠かせない役割を果たし、そして光のように周囲に明るい希望を与え、世の中をより良くしていく人になってほしいと思います。

学生たちは将来指導者の立場に立つこともあるかと思いますが、その際にも人や社会に仕える姿勢を大切にし続けてほしいと思います。これは、青山学院の一貫教育が目指す人物像であるサーバント・リーダー(自分の使命を見出して進んで人と社会とに仕え、その生き方を導きとする人)の精神と重なります。困っている人に声をかけるなど日々の小さな一つ一つの行いとその積み重ねは、社会における自分の位置、そして社会のために何ができ何をしたいのかを、これまでの学びや経験も交えながら問い続けることであります。それは自身のビジョンや使命を見出し確認していくことにもつながると思います。

私は、学生たち、そして世界の若者たちが戦場に立ち、立たされ、戦禍の中で生きることのないようにということを何よりも願っています。誰もが自分の可能性を存分に広げ成長していける環境にいてほしいです。前任校には留学生が多く、戦禍や政治的混乱の中で生きてきた学生もいました。アフガニスタンからの留学生の中には、1990年代の子供の頃にタリバンに撃たれた後遺症を負った学生がいました。また2021年のタリバンによる政権転覆の結果難民となり、現在はドイツで暮らしている卒業生もいます。ミャンマーからの留学生のうち数名は、2021年の軍事クーデター後の内戦で命を落としました。そして、世界では非常に多くの人々が今日も戦禍の中にいます。

学生たちには卒業後も本学での全人格的教えをもとに、共感、冷静な思考、そして対話を、いかなる環境においても実行し続けていってほしいと強く願っています。それは平和への第一歩であると信じています。

学生からの
Message

地球社会共生学部 地球社会共生学科 4年
山梨・北杜市立甲陵高等学校
小名木みなみ

熊谷先生のゼミには、意見を自由に言い合える寛容な雰囲気があります。「戦争と平和」というテーマは幅広く、各学生それぞれが異なる研究をしていますが、研究を進める中から得た視点や知識をお互いにアドバイスし合いながら、研究をブラッシュアップさせていくという面白さがあります。

熊谷先生は私たち学生の関心あるテーマを尊重してくださいます。また、学生同士で意見交換する際にも、落ち着いて自分の意見を言ったり、思いついたことを気軽に質問したりできます。ゼミに入った当初は拙い意見を述べることも多くありましたが、否定されることはなく、一個人の意見として受け止めてもらえました。その上で、こうした視点も大切ではないかとフォローしていただいたり、別の視点から物事を見ることの大切さをアドバイスしてくださったりするところに、居心地の良さを感じています。

私自身は中学2年生のクリスマスシーズンに3週間、アメリカにホームステイをした経験があり、国際系の学部に興味を持ちました。この学部を志望したのは、東南アジア留学がカリキュラムの柱である点が珍しかったことも理由の一つです。実際、2年次に5カ月間タイのカセサート大学に留学し、非常に貴重な経験をすることができました。現地で履修した国際政治の授業はディスカッションの機会も多くあったのですが、私と同じように他国から来た学生たちは、自国の状況を理解した上で、国際情勢に対して自分の意見を持っていました。その姿を見て、自分の学ぶ意識の低さを痛感しました。

留学での経験から、帰国後は、日頃目にするニュースに対して自分なりの視点や意見を持てるようになりたいと考え、熊谷先生のゼミで戦争と平和について専門的に学びたいと思うようになりました。そして、暴力的な戦争がない状態が、必ずしも平和ではないことを学びました。戦争に至るまでには、格差や偏見といったさまざまな問題が積み重なるプロセスがあります。そしてそれは、一見すると些細にも思える行為の積み重ねであり、もしかすると自分自身も無意識のうちに関わっているかもしれないという怖さを知りました。

私はロシアによるウクライナ侵攻をきっかけにロシア国内のプロパガンダに興味を持ち、3年次前期はロシア国内におけるプロパガンダについて研究しました。研究課題を決める際には、ニュースなどを見て疑問点を書き出し、先生やゼミ生の協力も得ながらブレインストーミングのような形から始めて、徐々に研究課題を絞っていきました。

3年次後期では、その関連テーマとしてポピュリズムの研究に取り組みました。アメリカのトランプ大統領がポピュリストの代表として知られていますが、民主主義が進んでいるヨーロッパでもポピュリズムが支持されるのはなぜだろうという疑問がありました。分析を進めるにつれて、経済的な格差、グローバル化、政治体制、選挙制度など、さまざまな要因が複雑に絡み合っていると感じており、ここからさらにテーマを絞り込み、卒業論文の執筆に向けて、できるだけ内容を深めていきたいと考えています。

一連の過程で、参考文献を読んで、筆者の意見に対して自分なりの考えや同意点、批評的な見方について書き出すという作業にも取り組んでいます。それらをゼミ生で共有し、意見を交換します。とても難しい課題ですが、文献をより深く読む訓練になっていると感じています。また、熊谷先生がメディアで報道された記事や時事問題を共有してくださり、ゼミ生で議論する時間もあります。

こうした訓練のおかげで、ニュースの背景を考え、情報収集を行い、さまざまな角度から分析した上で、どのように課題を解決できるかを多角的に考える思考力が大きく向上したと感じています。ディスカッションの機会が多いため、インプットしたことをアウトプットする力も身に付きました。こうした能力を伸ばしていける環境が、熊谷ゼミにはあります。就職活動も本格化してきていますが、どのような職業に就いても、このゼミで培った力をきっと生かせると思っています。

地球社会共生学部

地球社会共生学部(School of Global Studies and Collaboration/GSC)では、世界の人々と共に生き、共に価値を見出し、よりよい社会を共同で創造していくための専門知と実行力を備えた人材育成を目指します。激動する世界を視野に「地球社会」の多様性に触れ、異文化理解を深める幅広い学びを展開。世界の人々との「共生」をキーワードに、コラボレーション領域、経済・ビジネス領域、メディア/空間情報領域、ソシオロジー領域の専門4領域を中心に、Global Issuesを共に解決し協働できる「共生マインド」を養います。地球社会共生学科は、国境を超えた「地球社会」を教育研究対象としています。多角的な視点と異文化への共感力、語学力に裏打ちされたコミュニケーション能力をもって、さまざまなグローバル課題の解決策や持続的な社会を創造する方法を探究します。

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