世界の見え方が変わる研究の面白さ。好奇心を原動力に、絶対の正解がない問いに挑む
国際政治経済学研究科 国際政治学専攻 安全保障コース 修士課程2年

OVERTURE
「ぼやけて見えるものをクリアにしていく作業が好き」と語る佐藤海さん。核戦略研究の分野で「人間が本当にその政策を実行する意思を持ち得るのか」という問いに挑んでいます。現在の研究内容やこれまでの学び、研究に向き合う醍醐味などをお聞きしました。
人間の「意思」の視点から安全保障政策を研究する
現在、国際政治経済学研究科国際政治学専攻 安全保障コースで「損害限定は実現可能か」というリサーチクエスチョンについて研究を進めています。「損害限定」とは核戦略のひとつで、敵対国が保有する核戦力を相手が核攻撃に踏み切る前に破壊し、自国や同盟国の被害を最小限に抑えることを目指すものです。「同じ人間が、まだ何も起きていない段階で相手国に甚大な被害を与える命令を下すことなどできるのだろうか」という疑問を起点に、倫理的負担の大きさや破壊しきれなかった核兵器による反撃などを考えると、損害限定の能力を整備してもそれを使う意思は生じ得ないという仮説を立て、研究をしています。
安全保障環境が緊迫化するいま、再び核の惨禍に巻き込まれることがないように日本の安全を守るためにはどのような政策オプションが必要かを考える上で、拡大核抑止の重要要素とされている損害限定の実現可能性を分析することは有益だと考えます。大学院進学後は、膨大な核戦略の先行研究群における自身の研究の位置づけをより一層意識し、そこにどのような新規性を付け加えられるのかということを念頭に置いて研究に取り組んでいます。従来の研究は損害限定の「能力」に焦点を当てた形で発展しており、「意思」の視点からの研究はほとんど進んでいないため、そのリサーチギャップを埋めるような研究をしたいと考えています。

ゼミや授業で広がった視野
課外活動では学び合いと自由な探求を牽引
幼少期から「知りたがり」で、学童にあった歴史漫画を通じて世界史が好きになり、そこから徐々に国際政治へ興味が広がっていきました。高校生だった2020年に発生したアメリカとイランの対立において、全面戦争へのエスカレーションを回避するために双方が武力行使を限定する対応をとっているという解説を聞きました。軍事政策そのものが意思を伝える手段になり得ると学んだことで安全保障に関心を持ち、青山学院大学の国際政治経済学部国際政治学科への進学を決めました。
大学入学後は、安全保障の理論や政策についての授業を重点的に履修しました。安全保障理論を専門とされている泉川泰博 先生の「国際安全保障論Ⅰ」では、複雑で捉えるのが困難な国際関係を理論的に理解する姿勢を身につけることができました。また、権威主義国家において国内体制や対外政策が構築されていくメカニズムをわかりやすく教えていただいた「中国政治論Ⅰ」や「中国政治論Ⅱ」の授業にも大変興味を引かれました。独裁的な政治指導者の上意下達で動いていると考えていた権威主義国家も、実際にはさまざまな組織や立場での絶えざる対立や調整によって動いていると知り、そうした一定の制約からは政治指導者も免れ得ないことを学びました。
安全保障についての理論的な研究を深めたいと考え、学部3年次から現在まで泉川先生のゼミナール(ゼミ)に継続して所属しています。学部時代のゼミでは、研究方法論や日本外交史についての学びも印象的でした。研究方法論を学ぶ中で、学術的に「原因Aが結果A’を招いた」と結論づけるためには複雑な実証プロセスが必要であると気づかされ、大学院で研究計画を作る際の助けになったほか、日常生活においてもある物事について結論を下したり印象を述べたりする際に、より慎重に考えるようになりました。日本外交史についての回では、実に多くの要因が入り組んで外交政策が形成されることを知り、ある国の核戦略や核戦力態勢を分析する上で、国内の利害関係など軍事的合理性以外のさまざまなファクターにも着目することの重要性を認識しました。各国の安全保障政策の背景にある重層的な動機をとらえる視野が養われたと思います。

また、課外活動でも知的好奇心を共有できる場所を求めて、国際政治経済学部公認の学生団体「外交・国際公務指導室」で活動してきました。国際関係に関する勉強会やゲストを招いての講演会を開催し、知識を深め、意見交換等を通じて学生相互の探求心を向上させることなどが主な活動内容です。学部時代は運営幹部を務め、「自分の知的欲求を満たすだけでは団体活動をする意味がない」という思いから、互いに学び合って活動するためにはどうすれば良いかを随分考えました。私は「安全保障・軍事」の研究班を取りまとめる立場でしたが、指導室全体の方針がある中で、より広く知識を交換しながら自由に興味を探求できる形を目指してきました。いろいろな意見がある中で、調和をとりながら皆の満足度を高めようと努めた経験は、今後チームで何かに取り組む際の糧になると思います。
外交・国際公務指導室で安全保障に関する新歓講演を行った
固定観念にしばられず、クリアな視界で世界を見たい
核戦略についての学びを深めないまま就職したら後悔が残ると感じ、大学院への進学を決断したのは学部3年次が終了する頃です。他大学の大学院も検討しましたが、防衛省防衛研究所の在籍研究者や在籍経験者による講義が複数開講されていたり、図書館が提供しているデータベースで大半の安全保障関連のジャーナルにアクセスすることが可能であるなど、安全保障研究に適した環境が整備されている本学を選びました。学費の資金面での不安は強かったのですが、青山学院万代基金給付奨学金や大学推薦による給付型奨学金が支給されたため、安心して研究に励むことができています。
知識が豊富な先生方と積極的にコミュニケーションをとり、豊かな学びの機会を得ています。修士課程1年次には、防衛研究所の研究幹事である兵頭慎治先生の「中央アジア政治外交」の授業を履修したのをきっかけに、兵頭先生に推薦いただき、2025年9月に根室で行われた「北方領土ゼミナール」に参加しました。これは北方領土問題に対する理解と意識向上を図る目的で独立行政法人北方領土問題対策協会が主催しているもので、2026年2月には「令和8年北方領土返還要求全国大会」でスピーチも行いました。領土問題は国家同士の視点で見てしまいがちですが、元々そこには多くの人の暮らしがあり、その暮らしを失った人たちがいまどのような思いでいるのかを理解するための大変貴重な経験になりました。
大学の卒業旅行で中国へ。天安門広場の前で。
修士課程修了後は今までの研究で培った知識を生かせる仕事に携わる予定ですが、核戦略についての研究も個人的に続けるつもりです。今はいろいろな情報発信の手段があるので、グローバルに研究成果の共有に取り組み、研究を志す人や関心がある人へ届くように努め、政策立案に関するより良い環境づくりにも寄与できたらと考えています。
研究の楽しさは世界の見え方がどんどん変わっていく点にあり、「好奇心」が私の原動力です。人は気づかぬうちに固定観念にとらわれて世界を見ていて、実に多くのものを見落としていると思います。私自身、視野が狭まっていると思うことがよくあり、幅広い情報収集は欠かせません。世界は極めて複雑に動いていて、その複雑性の解釈についても刻一刻と変化し、絶対の正解はない中でも、視界をクリアにし、精緻な理解をめざしたいという思いに背中を押されて、日々の情報収集や研究に取り組んでいます。
研究を通じてまだ世の中で気づかれていない視点を見つけて伝えることで、自分自身と他者の視野を広げることに魅力を感じる人には、大学院進学をおすすめします。研究を深めていく過程で、自分が見ていたのは実際の世界のごく一部に過ぎなかったことを体感できると思います。
2026年度学業成績優秀者表彰の表彰式にて
※各科目のリンク先「講義内容詳細」は掲載年度(2026年度)のものです。
国際政治経済学部 国政政治学科
青山学院大学の国際政治経済学部は国際社会への貢献をそのミッションとし、国際系学部の草分けとして創設されました。各学科の学びを深めるだけでなく、有機的に3学科の学びを統合することもできます。グローバルレベルの課題への理解を深め、エビデンスにもとづいて議論・討論するスキルを養成します。世界の多様な人々と協働し、新たな価値を創造する実践力を育みます。
国際政治学科では、国際社会を国際政治学の観点からとらえます。2年次以降に選択する「政治外交・安全保障」と「グローバル・ガバナンス」のいずれのコースも、大幅に刷新された新しいカリキュラムの下で、国際政治学の「最新」を広く深く体系的に学びます。学びを通じて身につけた能力は、近い将来に、国際社会の諸問題の解決のために大いに活かされることになります。









































































































































































































