貧困と脱開発。各地域に適した豊かさの追求

掲載日 2026/8/25
No.409
<2024年度 学業成績優秀者表彰 奨励賞受賞>
<2025年度 学業成績優秀者表彰 優秀賞受賞>
<2026年度 学業成績優秀者表彰 優秀賞受賞>
地球社会共生学部 地球社会共生学科 4年
伊藤 小晴
東京都・私立明治学院高等学校出身

OVERTURE

貧困問題について学びたいと地球社会共生学部に入学した伊藤小晴さん。日々の学びとマレーシア留学を通じて「脱開発」という学問分野と出会いました。学びを楽しみながら問いを深め、海外大学院進学という新たな目標に向かって歩みを進める伊藤さんに、お話を伺いました。

教会で育まれた貧困問題への関心

近隣に住む知人から教会のイベントに誘われたことをきっかけに、幼稚園の頃から度々、教会へ足を運ぶようになりました。教会では聖書の教えや奉仕の大切さを学ぶとともに、経済的に困難な状況にある人々への支援活動について触れる機会も多く、こうした経験を通して、幼少期から貧困問題への関心が育まれていきました。世界の貧困について、遠い立場から眺めるだけではなく、自ら学びたいという思いが芽生え、青山学院大学の地球社会共生学部に入学しました。

地球社会共生学部の魅力は、急速な発展を遂げている東南アジア諸国に焦点を当て、「広い視野と異文化への共感力を身に付ける共生マインド」という視点で学べることです。タイやマレーシアの大学への半期留学*が原則必修となっている留学制度にも引かれました。実際に学んでみると、学際的な学びが特徴であることがわかりました。環境課題やビジネス、メディア、聖書、農業、平和、紛争、安全保障、NPO・NGO、ジェンダー、統計、教育、科学、生命倫理など、幅広い分野を学ぶことができます。一方で、自分なりの「問い」を持たなければ、学びが表面的な理解にとどまってしまいます。その問いを軸に、さまざまな分野を横断的に学ぶことで、自分の興味や問題意識が深まり、一つのテーマを多角的な視点から捉えられるようになります。私は、その学びの中で「開発学」という学問分野と出会いました。さらに、その学びを留学というフィールドで実践的に深められることも、地球社会共生学部ならではの魅力です。

*2026年度から、タイ、マレーシアに加えてインドネシアへの留学も可能

日々の学びは、想像以上に刺激に満ちています。地球社会共生学部の先生方は多彩な経歴をお持ちで、授業においてご自身の経験も紹介してくださるため、内容をより身近に感じることができます。当初はあまり関心を持てなかったテーマも、先生方のお話に引き込まれ、いつの間にか夢中になって学んでいることもあります。「学ぶことってこんなに楽しいことなんだ」と気付くことができました。

地球社会共生学部には、「知りたい」「挑戦したい」という思いを持つ学生を支える充実した環境があります。実務家経験が豊富な先生方から、教科書だけでは得られない知識や視点を学ぶことができます。グローバルな課題はさまざまな分野と密接につながっていて、そのつながりに気付くたびに新たな発見がありました。その積み重ねが、この4年間の学びそのものだと実感しています。

多民族・多宗教社会のマレーシア留学での体験

1年次後期に留学したマレーシアのマラヤ大学での経験は、私にとって想像以上の学びと気付きに満ちた貴重な時間でした。マラヤ大学のあるクアラルンプールは多民族・多宗教社会のため、さまざまな民族や宗教、文化的背景を持つ人々が共に暮らす環境の中で、多様な価値観に触れることができました。そのような環境で生活していくうちに、次第に「自分の当たり前が通用しない環境」が心地よく感じられるようになりました。自分もまた、誰かの価値観や「当たり前」に縛られることなく、自分らしくいてよいことに気付き、心が軽くなるような解放感を覚えました。現地の大学や教会、寮を通して、多様な背景を持つ人々と出会い、語り合う中で、日々の生活そのものが学びとなる環境に身を置くことの意義を深く感じました。

マレーシアでの留学を経て、「開発や成長とは何か」と深く考えるようになりました。マレーシアは、以前抱いていた東南アジアのイメージとは異なり、近代的な高層ビルが立ち並び、活気にあふれた都市空間が広がっていました。一方で、そのすぐ近くでは貧困状態に置かれた人々の姿もあり、社会の中に存在する格差や不平等を目の当たりにしました。

現地で格差の現状を自分の目で見た際、同情ではなく、「なぜこの状況が生まれているのだろう」という問いが生まれました。開発が進む一方で格差が広がる現実を通して、留学前に抱いていた「豊かさ=理想的な開発」という考えを見つめ直すようになりました。その経験を通して、自分自身もまた特定の価値観を他者に当てはめようとしていたことに気付き、その姿勢の傲慢さを痛感しました。

「脱開発」という新たな視点との出会い

帰国後、物事を一つの価値観だけで捉えるのではなく、豊かさや開発の意味を幅広い視点から考えたいと思い、藍澤淑雄先生の「地域開発論」を履修しました。経済的に豊かな国に暮らす私たちは本当に豊かと言えるのか。開発の過程が、かえってその地域で暮らす人々に喪失感を与えているのではないか。藍澤先生の授業を通して、開発とは必ずしも大きな変化をもたらすことではなく、その地域にとって意味のある“イノベーション”であるべきであると学びました。現地に眠る潜在的な資源や発想を生かし、国という大きな枠組みではなく、地域に寄り添った形で開発を進めるという考え方に関心を抱くようになりました。留学中に抱いた疑問や違和感を学問として整理し、自分なりに言語化することで少しずつ理解を深められるようになったと感じています。

現在は藍澤先生のご指導のもと、経済成長を中心としたこれまでの開発を問い直す「脱開発」について研究しています。戦後の開発は、経済的に豊かでない国を途上国と設定し、その国の成長を目指して進められてきました。しかし、その過程で格差の拡大や環境問題、地域固有の文化や価値観の喪失など、新たな課題も生み出してきました。たとえば、かつて地域の中で自立した暮らしを営んでいた人々が、外部の経済システムに組み込まれることで、生活のあり方が大きく変化しました。その結果、格差の拡大や環境問題、地域固有の文化や価値観の喪失といった課題も生まれました。

2年次の留学中、ボルネオ島を旅行。現地に咲く、世界最大の花の一つであるラフレシアと一緒に

そのため、近年ではいわゆる「開発」から脱し、人々の支え合いや協力を重視する「社会連帯経済」に注目が集まっています。資本主義でも社会主義でもない、社会連帯を基盤とする、公平で安心・安全な経済システムです。

私はその実践例として協同組合に注目しています。日本の協同組合を事例に、協同組合が地域社会の中でどのような価値を生み出し、これからの社会にどのような示唆を与えるのかについての論文の執筆に取り組んでいます。「脱開発」そのものを目的とするのではなく、社会連帯経済をどうやって広げていくか、その視点に立つことで、初めて開発から脱する道筋が見えてくると考えています。

信仰を土台に広がる学びと国際協力

私の学びの土台には信仰があります。幼少期から教会に通い、高校3年次に洗礼を受けました。現在は、青山学院宗教センター所属の学生団体「青山キリスト教学生会(ACF)」に参加しています。毎週木曜日には、賛美(神様への感謝や敬意を歌や祈りで表すこと)や聖書を通して神様について考え、それぞれの想いや信仰を分かち合う「バイブルクラス」があります。そのほかにも、少人数で祈り合う「すもふぇ」や、宗教主任の先生方による講演を通して考え学ぶ「チャプスタ」など、さまざまな活動を行っています。また、年に数回、チャペルやチャペル前に広がる芝生で、パーティー形式で楽しむ活動や賛美を中心とした「賛美集会」も行っています。

一般的なサークルは趣味や価値観が似ている人たちが集まることが多いと思いますが、ACFはそれとは少し異なります。担当教員の八木隆之先生が「界隈ではなく家族」と表現されているように、神様を中心に集う私たちは、気が合う友達の域を超えた、簡単には切れることのない深い絆によって結ばれています。信仰を持たない人も活動に参加しています。また、学内に多くのクリスチャンの仲間がいることも知り、互いに信仰を励まし合いながら成長できることも、本団体ならではの魅力だと感じています。

3年次、相模原祭でACFでのコンサートで、証*を行った

*証(あかし)…自分が神様から受けた導きや恵みを、体験として人に伝えること

サークル活動とは別に、2年次の夏休みから学外の学生国際協力団体に所属しています。カンボジア農村部にある小・中学校を継続支援している「Michiiii」という学生団体です。大学の授業を通して知識を深めていく中で、「実践の場がほしい」「国際協力は何かを自分の目で確かめたい」という思いが強くなりました。母の知人の家族が参加していると聞いたことがきっかけで、この団体に入りました。

私たちの団体は学生のみで運営しており、活動資金の調達や渡航の計画はすべて学生が行っています。資金集めのためにチャリティーイベントや街頭募金を行うと、活動理念に共感し、寄付や協賛を申し出てくださる方々がいます。そうした一つひとつの出会いや支えに触れ、活動を継続することは決して当たり前ではないこと、多くの人に支えられて成り立っていることを実感しています。

夏休みと春休みの年2回、団体メンバーがカンボジアの農村部にある小・中学校を訪問しています。私も3年次の春休みに約2週間滞在しましたが、学校の前でシャトルバスを降りた瞬間の光景は今でも忘れられません。現地の子どもたちが笑顔で駆け寄ってきてくれて、誰かも分からない私の手を引き、言葉も通じないまま学校まで案内してくれたのです。

私は「もし、この場所で開発を進めたらどうなるだろう。子どもたちの笑顔が失われてしまうなら、開発のあり方そのものを問い直さなければならないのではないか。」という思いが自然と湧き上がりました。もともと授業を通して、実際に現地に行ってみないとわからないという思いが強くなったことが、カンボジアの支援活動を始めるきっかけでした。現地での経験を通して、大学での学びと課外活動が互いに結び付き、学びをさらに深められていることを実感しています。

2年次に訪問したカンボジアの学校の子どもたちと

心が踊る方へ、自分らしい未来への挑戦

3年連続で学業成績優秀者表彰を受けることができ、大変うれしく思っています。学ぶことそのものを楽しめていることが、この結果につながったのだと感じています。授業や課題の中で気付いたことがあれば、納得できるまで文献やインターネット上の然るべき資料も活用しながら丁寧に調べるよう心がけています。今回の受賞を励みに、学ぶことへの意欲がさらに高まりました。大学で培ってきた知識や経験をより深め、将来は社会に還元できるような形で生かしていきたいと考えています。

卒業後は「開発学」の分野をより深く学ぶため、海外大学院への進学を目指しています。この進路を考えるようになったきっかけも、マレーシアへの留学経験でした。留学前は、帰国後の就職活動について漠然と考えていましたが、留学先で5か月間を過ごした中で、自分の当たり前だと思っていた価値観が決して世界共通ではないことに気付かされました。現地では、日本とは異なる時間の流れや多様な価値観に触れ、自分の考え方を否定されるのではなく、むしろ受け止めてもらえたように感じました。その経験を通して、一つの価値観や常識にとらわれる必要はないのだと実感し、自分の将来の選択肢も大きく広がりました。

留学中もテスト勉強は欠かさなかった

その中でたどり着いた答えが、「開発学」をさらに深く学びたいという思いでした。大学院で専門性を高め、その学びを生かして社会に貢献することを考えたとき、自分が仕事をしている姿を少し想像しやすくなりました。また、地球社会共生学部で多様な価値観や背景を持つ人々と出会い、共に学ぶ中で、「人と違うことは格好いいこと」だと思えるようになりました。さらに、大学生活を通して、大学生だからこそ失敗を恐れず挑戦できるということも学びました。だからこそ、興味を持ったことにはまず飛び込み、その経験から学ぶことを大切にしています。私は、心の踊る方を選び続ける人生を歩みたいです。そして、地球社会共生学部には、そうした選択をする仲間たちがたくさんいて、その存在が私にとって大きな励みになっています。

※各科目のリンク先「講義内容詳細」は掲載年度(2026年度)のものです。

地球社会共生学部 地球社会共生学科

地球社会共生学部(School of Global Studies and Collaboration/GSC)では、 世界中の人々と共に生きるための専門知と実行力を備えた人材育成をめざします。激動する世界を視野に「地球社会」の多様性に触れ、異文化理解を深める幅広い学びを展開。専門4領域を中心としてアジア留学や英語教育などの充実を図り、Global Issuesを共に解決し協働できる「共生マインド」を養います。
地球社会共生学科は、国境を超えた「地球社会」を研究対象としています。世界の人々との「共生」をキーワードに、メディア/空間情報、ソシオロジー、コラボレーション、経済・ビジネスという4つの専門領域の学びにより幅広い素養を醸成。多角的な視点と語学力に裏打ちされたコミュニケーション能力をもって、さまざまなグローバル課題の解決策や持続的な社会を創造する方法を探究します。

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*掲載されている人物の在籍年次や役職、活動内容等は、特記事項があるものを除き、原則取材時のものです。

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