掲載日 2026/8/21

文学部 比較芸術学科
「美術」の多様な在り方をとらえて作品を分析し、背景にある人間の営みに触れる

水野教授からの
Message

文学部 比較芸術学科 教授
水野 千依

美術館に足を運んだり、書籍やインターネットなどで美術に触れたりする機会があると思います。作品をただ眺めるのも心地よいものですが、多角的に分析することで、芸術家の技量や工夫、作品にそなわる意味や魅力をより深く理解することができます。本ゼミナール(ゼミ)では、「西洋美術史」をテーマに、各自が自らの関心に沿って研究対象を定め、さまざまな視点から掘り下げていきます。

Q.ゼミの研究内容について教えてください。

古代から近代までの西洋美術史を、学生一人一人の関心を尊重しながら、多角的に学んでいます。ゼミの活動の中心は、学生による主体的な発表です。

ゼミに入ったばかりの3年次は、私が選んだ研究論文をグループで読解し発表することで、まずは論文を批判的に読む姿勢を身に付けます。ディスカッションしながら発表用の資料を作っていく過程も、それぞれの視点を出し合って一つのストーリーを作っていく体験の場として大切にしています。課題のテクストは毎年趣向を変えていますが、読み物として視覚的にも楽しめ、学生の関心を引く文献を意識して選定しており、今年度は古今の画中画の多彩な作例を記号論やテクスト批評、人類学、精神分析などの隣接領域を横断して多面的に論じたヴィクトル・I・ストイキツァの『絵画の自意識』を取り上げました。

3年次の後期からは、各々関心のある作家や作品の中で研究対象を絞り、調査・分析・考察を重ねて個人発表を行います。私自身は中世・ルネサンスのイタリア美術を専門に研究していますが、イタリア美術を選ぶ学生はほとんどおらず、中世のロマネスク美術、ベラスケス、ベルト・モリゾ、ターナー、マネ、ゴーギャン、クリムトなど、今年度も多様な研究対象が選ばれています。まずは作品を丁寧に言葉で描写し、「どのような様式で表現されているのか」「何を意味しているのか」といった基本的な問いから、作品が制作された時代の文化、宗教、思想、政治状況なども踏まえ、その作品が当時の人々にどのように受け止められたのか、社会においていかなる役割を担っていたのか、注文主や受容者の存在も視野に入れて考察を深めます。一括りに「美術」と呼ばれるものが、歴史の中でいかにその機能や意味を変容させてきたのかを実感できるはずです。

Q.ゼミはどんな雰囲気で、指導する上でどのようなことを意識していますか?

ゼミは和やかで穏やかな雰囲気です。美術部に所属している学生も多く、制作する立場から美術の歴史を見つめ直すことに関心を持つ人もいれば、1年次の必修科目「比較芸術学入門A・B」などで美術への関心を高めたという人もいます。比較芸術学科に設けられている研究会の一つであり、本ゼミが主体となって活動している「西洋美術研究会」を通じて折々の展覧会を見学したり、ゼミ合宿を催したりと、授業外でも積極的に交流を図っています。

学生たちは丁寧に発表の準備を進め、3年次のうちに卒業論文の骨格ができあがる人も多くいて、意欲の高さに驚かされるほどです。研究を深化させるためには、研究上の情報交換や他者の視点を知ることも重要なので、発表後はコメント・シートで全員が発表者に感想や意見を伝えることにしており、「こういう観点で切り込むのはどうか」「こういう方法論を用いたらどうか」など、学生同士でアドバイスを送り合う様子も見られます。ディスカッションを行う際には、私の方からアトランダムに学生にマイクを向けて、気負わずに意見交換できる雰囲気づくりを心掛けています。

また、課外授業として美術展を訪れ、作品に直接触れることも大切にしています。画家の筆触や描き直し、技法や素材といった作品にそなわる物質的要素は、複製写真では十分に感じ取ることができません。絵画の表面をじっくり見ることで得られる情報量には計り知れないものがあります。画一のフォーマットでまとめられた図版と実作品とではサイズ感も全く異なり、見えてくるものも変わります。学生には、渋谷という地の利を生かして、たくさんの展覧会に足を運び、実物を見るよう伝えています。受動的に鑑賞するだけでなく、展覧会の構成、展示の意図や動線の作り方、情報提示の仕方などに目を向け、企画自体を批判的に考察することでも広い視野を養うことができます。

Q.ゼミに興味がある学生・高校生にメッセージをお願いします。

美術作品はただ美しいというだけでなく、神への捧げもの、死者や祖先の分身、呪具、護符、あるいはプロパガンダなど、さまざまな力や機能を帯びて息づいてきました。何百年、何千年という時間を生き延びてきた「もの」として作品を考えることは、人間の営みに触れることでもあります。その多様な在り方を踏まえつつ、作品を理解する姿勢を身に付けてほしいと思います。

学生の進路はさまざまですが、ギャラリー、印刷出版業や新聞社など、何らかの形で芸術や視覚文化に関わる仕事に就いている卒業生がたくさんいます。どのような進路を選んでも、卒業後も多くの人が忙しい日々の中で、意識的に美術に触れる時間を大切にしているようです。

興味のある作家や作品を契機に、互いに語り合う場として、本ゼミに興味を持っていただければ嬉しく思います。漠然とでも西洋美術や文化に興味がある人は、ぜひ扉をたたいてください。かつてこの世に生きた人々の息遣いを感じながら、感性豊かに多くの芸術を味わいましょう。

学生からの
Message

<2024年度 学業成績優秀者表彰 奨励賞受賞>
<2026年度 学業成績優秀者表彰 最優秀賞受賞>
文学部 比較芸術学科4年
神奈川県立神奈川総合高等学校出身
森野 日向子

中学では美術部、高校では演劇部に所属していました。その経験を生かしながら、より深く芸術について学びたいと考えていたため、「美術」「音楽」「演劇映像」の三領域を横断的に学ぶことができる文学部比較芸術学科を志望しました。

高校で受けた美術史の授業が印象的で、大学では西洋美術の領域を深く学びたいと考えていた中で、受験時から水野ゼミに入ることを志していました。美術部での活動では、地域の施設の館内装飾などに主に取り組んでいたことなどもあり、単純な美的価値では測れない芸術活動に興味をもってきました。水野先生が近代以降の「美術」という概念からはこぼれ落ちるような、あまり注目されてこなかったイメージ群にも心を向けて、美術と文化人類学の両面から研究に取り組まれていることを知り、その探求姿勢に魅力を感じました。

水野ゼミには西洋美術に関心がある熱心な学生が集まっています。水野先生は学生の主体性を重視してくださり、各自が興味を持ったいろいろな時代・地域の作品や画家について研究しています。学生一人一人が異なるテーマを研究しているからこそ、発表や意見交換を通して、自分の研究対象とは異なる時代や地域との共通点や相違点に気付き、新たな視点を得ることができます。

いま自分が生きている社会とは異なる時代や地域の文化を学ぶことができるのも本ゼミの奥深さです。たとえば私自身はクリスチャンではありませんが、聖書の物語と結びつけてキリスト教美術の作品を読み解いていくと、その作品に心を救われた人たちの存在にまで思いを馳せられるようになるというのは水野ゼミで学んだからこその体験でした。

3年次の前期はヴィクトル・I・ストイキツァの『影の歴史』を要約し発表するグループワークに取り組み、作品の分析方法や論文の書き方など、その後の個人研究に大いに役立つ学びを得ました。3年次後期からは、スペイン・バロック期の画家、ディエゴ・ベラスケスを中心に研究をしています。遠く離れた時代・地域の作品を扱っているため、情報の収集に行き詰まることもありますが、水野先生が適宜参考になる先行研究を教えてくださいますし、ヒントになりそうな文献や展覧会などの情報をゼミの仲間と共有し合うこともあります。発表後には毎回先生から視座の高いフィードバックをいただき、先生や仲間の支えがあって充実した学びが叶っていることに感謝しています。

日々の研究においては自分の言葉で作品のディスクリプションを丁寧に行うことを心がけています。作品の構図や色使い、筆致の特徴などを言語化しようとすることで、それまで気付いていなかった細部の特徴がより鮮明に見えてきます。美術という抽象的な対象をわかりやすく伝える言語化能力と、細かな情報にも心を配る注意力はゼミで最も磨かれた部分だと思います。

課外活動では「フラサークルUluwehi愛好会」に所属し、副代表を務めました。大学フラチームの全国大会であるカレッジフラコンペティションに二度参加し、団体最優秀賞を連続で受賞できたことは、大学生活の素晴らしい思い出です。ハンドモーションで感情や物語を表現するフラを学ぶ中で、ゼミで培った美術作品のモチーフを読み解く力は、振り付けに込められた意味を理解し、表現するうえで大いに役立ちました。また、フラとゼミ活動を通して、その文化を大切に継承してきた人々の思いや自分とは違う価値観へのリスペクトが育まれたと感じています。

ゼミの友人たちと「ウジェーヌ・ブーダン展」を見にSOMPO美術館へ

卒業後は不動産関係の企業に就職する予定です。一見、学科の学びと異なる分野に思われるかもしれませんが、ゼミやサークルの活動で身に付けた、多様な意見を受け入れながら自ら考える力や、言語化能力、分析力を生かしていけると確信しています。人々の生活に彩りを与えていくような仕事をしていきたいです。また、人間の歴史とともに存在し続けてきた芸術活動に対しても、これからも豊かな感受性を持って向き合い、考え続けていきたいと思います。

※各科目のリンク先「講義内容詳細」は掲載年度(2026年度)のものです。

文学部 比較芸術学科

青山学院大学の文学部は、言語、文学、思想、歴史、芸術などを学ぶ5つの学科から構成されています。人間が人間自身を問い続ける営みを通して生み出してきた多様な知の世界に触れることで、幅広い教養と確かな批評能力を養います。「人文知」の広大な世界を垣間見ることで、知性、感受性、表現力を磨き、自らの未来を切り拓く「軸」を形成します。
比較芸術学科は「美術」「音楽」「演劇映像」という3つの領域をもって構成されています。これらは古典や伝統、歴史を基盤とする人文学の基本というだけでなく、現代社会の芸術・文化の本質を知るうえでも欠くべからざる領域といえるでしょう。各領域内での研究にとどまることなく領域相互の幅広い「比較」を行い、学びと体験を深め、言葉を紡いで第三者に自己の感動と考えを伝えることを通じ、それぞれが豊かな“人間力”を開拓してゆくことをモットーにしています。

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*掲載されている人物の在籍年次や役職、活動内容等は、特記事項があるものを除き、原則取材時のものです。

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