掲載日 2026/10/09

教育人間科学部 心理学科 臨床心理学
「学び」と「実践」を往還
対話を通して人と自分を深く理解する臨床心理学の探究

沖潮准教授からの
Message

教育人間科学部 心理学科 准教授
沖潮 満里子

教育人間科学研究科には、教育学専攻と心理学専攻の2つの専攻があります。教育と心理という異なる視点から人間を深く理解することを共通の軸とし、心理学専攻では、専門的な知識や研究能力を身に付けるとともに、高い倫理観をもち、社会に貢献できる人材の育成を目指しています。その中でも臨床心理学コースは、国家資格である公認心理師と、長い歴史と実績を持つ臨床心理士の資格取得を目指せるカリキュラムを整えています。臨床心理士の養成については第一種指定大学院として認定されており、教員体制や心理相談室、カリキュラムなど、充実した教育・実践環境のもとで学ぶことができます。修了後は、実務経験を経ることなく臨床心理士資格試験を受験することができます。大学院生は「学び」と「実践」を往還しながら、心理臨床に必要な知識と実践力を日々磨いています。

Q.ゼミナール(ゼミ)での学習内容について教えてください。

臨床心理学コースでは、心理臨床の実践と研究活動が中心となります。講義や研究で理論的な知識を深めるだけでなく、教育人間科学研究科附置の「心理相談室」や学外での実習など、実践の場で経験を重ね、「学び」と「実践」を往還しながら専門性を高めていくことができます。公認心理師と臨床心理士という2つの資格の取得に向けて、履修必須の授業も多く、学ぶべきことも少なくありませんが、大学院生は高い志を持って一つ一つの課題に取り組んでいます。臨床にも研究にも真摯に向き合い、常に学びを深めようとする姿勢を持っています。

私の専門は、インタビューや参与観察 *1などを方法として用いる質的研究です。心理学では統計的な手法を用いて人の心や行動を捉える研究も多く行われていますが、質的研究では、人々の経験や語りを通して、その人にとって物事や出来事がどのような意味を持ち、どのように理解されているのかを探究しています。インタビューは、心理学において人の経験や思いを理解するための重要な研究方法の一つです。しかし、単に質問をして答えを集めるものではありません。インタビューで語られることは、あらかじめその人の中にあるものがそのまま取り出されるのではなく、研究者と研究参加者との対話の中で、ともに形づくられていくものでもあります。だからこそ、どのような問いを立てるのか、研究者自身の立場や経験、相手との関係性が対話にどのような影響を与えているのかを考え続ける必要があります。こうしたリフレキシビティ(再帰性)も、質的研究の大切なテーマです。ゼミの院生は、たとえば「不妊治療の経験を語り合うことの意味」や「学生時代に母親の闘病を経た子どもの経験」など、さまざまなテーマについて研究に取り組んでいます。

そうした難しさがある一方で、「こうしたらもっと面白いのでは」「このような見方もできるのでは」と、ゼミでは日々活発な議論が交わされています。研究に真剣に向き合いながらも、自由に意見を交わし、楽しみながら学べる点が、このゼミの特徴だと思います。研究指導においては、大学院生一人一人の興味・関心を尊重し、その探究を支えることを重視しています。学生が明らかにしたいこと、探究しようとしていることに対して、どのような方法でアプローチできるのかをともに探っていくことが、私の使命だと考えています。同時に、その問いが社会に対してどのような意義を持つのか、大学院で取り組む研究として十分な深さと広がりを備えているのかという視点をもつことも、指導において心がけています。臨床指導においては、大学院生一人一人の個性や強みを生かしながら、その人らしい臨床家として成長していけるよう支えることを大切にしています。

*1…研究者が、研究対象となる人々の活動や生活の場に実際に参加しながら、人々の行動ややりとり、それらが生じる文脈を観察し、記録する研究方法。

Q.教育人間科学研究科附置の「心理相談室」との関わりや特長を教えてください。

「心理相談室」は、2000年に開設され、地域の方々に開かれた心理支援の場として歩んできました。実際のクライエント(相談者)に相談料をお支払いいただき、心理臨床の専門家を志す大学院生がセラピストとして心理臨床の実践を行い、研鑽を積む養成施設としての役割も担っている点が一番の特長です。クライエントが抱える心の悩みや問題を少しでも和らげ、その人らしく生きていくために、セラピストとして何ができるのか。大学院生たちは、一生懸命うなったりもがいたりしながら、一人一人のクライエントと真摯に向き合っています。大学院生は、原則として本学教員や外部の専門家からスーパービジョン *2を受けながら、対人援助職として必要な専門的スキルを磨いています。

さらに、学外での実習を通して、心理職が活躍するさまざまな現場について学ぶ機会も設けています。実習先には、病院や地域活動支援センター、小中学校などがあります。保健医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働という、公認心理師が活動する5分野すべてで実習できる機会があることも、本学の特徴です。できる限り大学院生の興味・関心に応じた実習先で学べるよう調整しています。長期の実習では1年間にわたり毎週通うケースもあります。心理職がどのような環境で働き、どのような役割を担っているのかを、実際の現場で学ぶことができる貴重な機会となっています。

人と向き合うということは、自分に向き合うことでもあり、そこに臨床心理学を学ぶ意義や面白さがあると考えています。他者を理解しようとする過程では、自分自身がどのような人間なのか、何を大切に生きてきたのかを見つめ直すことになります。それは決して容易なことではありませんが、自分自身への理解を深め、自分の人生をまた一歩進めていくきっかけにもなると思います。

*2…心理士やカウンセラーが自らの臨床実践について、より経験豊富な心理士(スーパーバイザー)から助言や指導を受けること。

Q.研究と実践を通して学生にどんなことを身に付けて社会に出て欲しいと願いますか。

臨床心理学コースの博士前期課程を修了した大学院生は、公認心理師や臨床心理士の資格を取得し、心理職として働いている方が多いです。修了生は、総合病院や地域のクリニックといった医療分野、乳児院や児童相談所、児童養護施設などの福祉分野、教育センターやスクールカウンセラーといった教育分野、警察機関などの司法・犯罪分野、企業や、その企業で働く人々を支える産業・労働分野の心理職など、幅広く活躍しています。もちろん、博士後期課程に進学し、心理臨床と研究活動を継続している学生もいます。

学生には1日1日を当たり前に過ごすのではなく、時には立ち止まり、自身が無意識のうちに前提としている考え方や価値観を問い直したり、物事を多角的に捉えたりする姿勢を身に付けてほしいと伝えています。人の心を理解しようとすること、自分自身を見つめ続けること、そして仲間や教員との対話を重ねながら問いを探究し、実践を積み重ねていく経験は、きっとこれからの人生を支える大きな財産になると思います。

資格取得は決してゴールではありません。ここでともに考え、悩み、学んだ経験を土台に、社会に出てからも人と向き合い、心理職として学び続けてほしいと願っています。

関連リンク:より総合的に「人間」を学ぶ 青山学院大学の「心理学科」とは? | AGU NEWS

学生からの
Message

教育人間科学研究科心理学専攻 臨床心理学コース博士前期課程2年
大妻中学高等学校
中山 りさ子

学部2年次までは、臨床心理学の道が本当に自分に適した進路なのか迷いがありました。その中で、実習に参加してさまざまな現場を見たり、心理職の方のお話を伺ったりしながら、自分の進路について考えていました。3年次に小児総合病院や療育センターでの実習の経験を通して、臨床の現場で働くことこそが自分の目指す道であると確信しました。医療分野や福祉分野において、子どもへの支援に携わりたいという目標が明確になったことから、公認心理師と臨床心理士の資格取得を目指し、大学院への進学を決意しました。

沖潮先生には学部3年次からゼミでご指導いただき、いつも温かく接してくださるお人柄に魅力を感じました。先生のような心理職になりたいという憧れがあったことに加え、修士論文ではインタビューを用いた質的研究に取り組みたいと考えていたことから、質的研究を専門とされている沖潮先生のもとで大学院でも研究を続けたいと強く思いました。

大学院においても、沖潮先生は私がより深く探究できるように研究の方向性について助言をくださり、丁寧にご指導をしてくださっています。「研究する意義がある」と励ましてくださる先生のお言葉は、研究を進める上で大きな支えになっています。また、研究発表などの緊張する場面でも、先生の温かいお言葉に何度も勇気づけられてきました。大学生活だけでなく、日々の悩みにも親身に寄り添ってくださっています。先生は、ゼミの活動や交流の場でも学生と親しく関わってくださるため、ゼミはいつも和やかな雰囲気に包まれています。

修士論文では「両親間の葛藤を経験した人のライフストーリー ―学童期から青年期にかけて親が離婚した人の語りから―」という題目で、両親間の葛藤を経験した方へのインタビューを通してライフストーリーを描き、その経験がその方の人となりにどのようなものをもたらしているのかを明らかにする研究に取り組んでいます。

両親の離婚や家庭内の葛藤を経験した子どもへの心理支援に関心を持っているため、研究を通して得られた知見を、将来の臨床実践にも生かしていきたいと考えています。臨床で向き合う課題を研究として深く掘り下げていけることに、研究の意義や面白さを感じています。

現在は、後悔のないように修士論文と真摯に向き合い、納得のいく論文を書き上げることを目標に取り組んでいます。修了後は、大学院で培った知見を生かし、総合病院における周産期や乳児院などの場で、子どもが生まれる前から乳幼児期に至るまでの母子への心理支援に携わる心理職になることを希望しています。子どもにとって、乳幼児期に自分を大切に思ってくれる養育者の存在や、安心して過ごせる環境があることは、その後の人生を支える大切な基盤になります。そうした基盤づくりを、心理的な側面から支えていきたいと考えています。

教育人間科学部 心理学科

青山学院大学の教育人間科学部は、教育学科と心理学科の連携によって、「人間」の多様な側面について総合的に学べる多彩な講義、演習や実習を展開しています。同時に、教育・心理それぞれの分野における専門知識を土台とした、理論的な知と実践的な知をバランスよく身に付けることを目指します。現代の人間に関わる諸問題を読み解き、社会の要請に答える能力と、自ら行動するための課題解決能力・自己教育力を育成します。
心理学科では、心理学を抽象的な学問としてではなく、具体的な知恵や実践的な技術を修得する学問としてとらえます。感覚・知覚などの基礎領域から、社会・臨床などの応用領域までを学び、心理に関する諸現象を科学的・人間学的・総合的に研究し、家庭や教育、医療の現場、一般企業などで活かせる高い専門力を養います。また、心理専門職初の国家資格「公認心理師」取得のサポートも充実しています。

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